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──山口さんの目を、治したくて。
あの時香偲にそう言われて、修羅は不思議そうに首を傾げた。
たしか、とっくに生徒会が治療能力である朱里に治してもらおうとしていたはず。しかもそれは失敗に終わっていた。
それはそうだ。治すものが無いのだから。
愛は傷や病気で視力を失ったのではなく、あくまで能力を持ったことによる、イレギュラーな理由で目が見えなくなったのだ。
どこも治す場所がない。だから、不可能だったのだろう。
どうやら香偲はそれをまだ諦めてはいなかったらしい。
しかし、今度は自分に頼んでくるとは。
ふむ、と修羅が少し考えてあらためて視線を向ける。
「残念だけれど……僕の能力でも無理だと思うよ。たしかに僕の能力は干渉することによって色んなことが出来るけれど、種類が出来る分質は落ちていてね。治療能力である藤山には勝てないんだよ」
能力は意外と複雑らしく、「なんでも出来る能力」を持った人間と、「治療能力」を持った朱里とでは出来ることや出来ないことの差が結構ある。
たとえば治るスピード。
治療専門の能力を持った朱里が圧倒的に早い。
治せる傷の深さだってそう。朱里は瀕死でさえなければ治せるのだ。
なんでも出来る能力でそれらをしようとしても、どうしても専門の朱里には劣る。
そもそも、持ってるカードの種類が違うということだ。
だから、修羅が行う「治療」では朱里の行う「治療」に勝てない。
それなのになぜ今さら自分を頼るのだろう?
「……なにか、考えがあるのか」
「うん、まあ……。出来るかどうかはやってみないと分からないんだけど」
「いいよ。やってみよう。で、具体的には何をどうしようと思ってるんだい?」
香偲は前のソファへと座ってあらためて修羅へ向き直る。
「修羅が山口さんの体に干渉して、藤山さんの「治療能力」を案内出来ないかと思って」
「案内?」
「干渉能力で道を広げて、視力に直接藤山さんの能力を届けるんだ。無理やり「治す対象」を指定して、そこにダイレクトに能力をぶつけることで「これは治せるものだ」って治療能力を勘違いさせる」
「……なるほどね」
「上手く言えないんだけどなんか、こう……干渉するからこそ出来なかったことが出来るというか……切らずに薬で治療しようとするのと、切って直接原因取り出すのとでは違うというか……」
うーんと難しそうに唸り始めた香偲を見て、修羅は再び頬を緩ませた。
なるほど、それは考えていなかった。まさか能力を組み合わせるとは。
流石と言うべきか。自分たちには無い発想力を持っている。
「良さそうだ。とりあえずやってみよう」
「あ、ありがとう」
「さて……それじゃあまたあの学校にお邪魔しようか──」
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