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ふと、「たとえば」と愛が片手を上げた。
「アヤカのように情報を読む能力を使ったとしても真実を知ることは難しいのかしら」
「それは、どれだけ上手く使えるかによるでしょうね」
「上手く?」
不思議そうに首を傾げるアヤカにNは頷く。
「さっきも言った通り、膨大な数の情報がある相手。当然、それらが一度に頭に流れてくることになる。その時あなたの頭はそれに耐えなきゃいけないのよ」
「想像するだけで頭こんがらがりそう……」
アヤカはそれを想像したのか、渋い顔を浮かべて呟いた。
情報を読むという能力にはそういう欠点もあるのか。
けれど、とNが口を開くと再びそれぞれの視線が向けられた。
「それこそブレイカーにとって思い入れが強いものを手に入れられたなら、優先的に真実が見えやすくなるでしょうね」
「でもきっと入ってくる情報量は変わらないよね」
「そうね……マシ、ってくらいかしら」
「現実的じゃないかぁ」
心底残念そうに肩を落とすアヤカを愛が背を撫でて慰める。
力になりたいが、それをした時に自分がどうなってしまうのかと考えるとリスクが高い。
決して迷惑や心配をかけたい訳では無いのだ。
それぞれが諦めモードになっている中、シエは「あの」とNに声をかける。
「そうなるとやっぱり能力についても何も分からないんでしょうか……。以前、修羅組を操ったと思われるんですが」
「んー……情報としては分からないわね。推測なら出来るかもしれないけれど」
「推測?」
「たとえば、操られてどうなったのか。操られた人間は皆同じことを言っていたり、同じ行動を取っていたかしら?」
「それなんですけど、少し気になることがあって」
香偲の言葉にシエは「気になること?」と首を傾げた。
「その時々、個人によって目的がバラバラだったんです。研究者を殺すと言ったり、積極的に生徒会を攻撃したり……個人で言うなら奈々さんは莉柚さんを、朱焚亜さんは俺らを守ろうとした。蜂南一家を探しているのは間違いないと思うんですけど、それなら聞くだけでいいような気がして」
上手く言えないけど、と香偲が眉をしかめる。
「ただ操る能力なんじゃなくて、個人に影響させる何か……たとえば暴走させる、ってものなんじゃないか、って」
「……たしかにそれだと納得がいくな」
それに続くように、ふむ、と海豚が考える素振りを見せた。
香偲の言っているような能力だとしたら、個々によって行動原理が異なるのも頷ける。
蜂南一家を探すのが目的なのに操りきれてるとは言えないような。
ブレイカーの思惑通りに動かせるならもっと行動が統一されるはずだ。
それともブレイカーにも何か目的があって、それならそれで好都合なのか。
竜也は一人、ブレイカーと思われる男と顔を合わせた時のことを思い出していた。
───呪いの子を巻き込めば巻き込むほどアイツに近付く。
派手に動いていた理由はこれだろう。そのおかげで組織にも注目され、良くも悪くもブレイカーは目立っている。
多くを巻き込んで知名度を上げることで蜂南一家にたどり着こうとしているのだろう。
それほどまでに蜂南一家に近付きたい理由は分からないが……。
それより気になるのは。
「……あの時会った男は、その方が、やりやすい。そう言って俺に手を伸ばしてきた」
「まさか、それが発動条件か?」
「触れなきゃいけないのかとか、詳しいことは分からないけど……手が重要なことは間違いないかも」
「手か」
理央が自身の手を見つめる。
たしかに自分の「風を操る」能力も、触れる必要は無い。
ただ、伸ばしてきた、となると「触れること」が発動条件の可能性は高そうだ。
「しかし「やりやすい」ってのはどういう事だろうな」
「……俺が取り乱した時だったから……メンタルが乱れた時かもしれない」
「あーなるほど」
竜也の言葉にふむふむと納得するように理央が頷く。
動揺してしまったりするとその能力の影響を受けやすいということか。
なかなかに厄介とみえる。
それぞれが考えている様子をNは静かに見つめる。
海豚はそれを横目で見ると、再び生徒会へ視線を戻した。
「とりあえず、会ったとしても触れられない方がいいだろうな。やられたと思われるやつにも」
「え?その能力を持ってるブレイカーじゃないのに?」
「香偲、お前は覚えてるか分からねェが、オレが暴走したのはお前が触ってきたからだ。だから、感染する可能性がある」
「そ、そうだったんだ……。じゃあ確かに触れない方がいいね」
「知れば知るほど厄介だなァ」
海豚は両手を上にあげて伸びをする。
「んで」と話を変えるようにシエに顔を向けた。
「この人の事信じんのか?」
「……そうですね」
シエは意を決したように顔を上げ、Nを見つめる。
「もうすでにかなり話してもらいましたし、正体が分からないとはいえ確かに敵では無いようです。……あらためてお願いします。協力、していただけませんか」
頭を下げる彼女にNは優しく微笑んで「もちろんよ」とシエの頭を撫でた。
「私からお願いしたんだもの。出来る範囲になるけれど、なるべく協力させてもらうわ」
ホッと頬を緩ませるシエとは正反対に、珠喇は不安が残ったまま複雑そうに顔を顰める。
多くの情報、そして自分たち以上の頭脳を持つ大人の女性。
海豚はそんな彼女を知り合いと呼び、信頼もしているようだった。
……そこを疑っているわけじゃない。だが。
モヤモヤする心に蓋をするように、珠喇は目を伏せた。
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