第七章 N

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「ひさしぶりだなー」  とある一軒家を見上げてアヤカはぽつりとこぼした。 以前はしょっちゅう訪れていたが、ここ最近は寄ることも無くなっていたから。……まあ、先月も来たのだが。  そして「清川」と書かれた表札を見てから、人差し指でインターホンを押す。 やがて扉が開かれると、中からシエが顔を出した。 「あ。アヤカさん。どうぞ」 「ありがとー!お邪魔しまーす!」 招かれるまま家に入り、玄関で靴を脱ぐ。 そのまま二階にあるシエの部屋へと案内された。 「今日お母さんは?」 「少し用事があって出てます。アヤカさんに会いたがってましたよ」 「えー!うれしい!また会いに来ないとね」 えへへ、と嬉しそうに笑みをこぼしてラグの上に座ると、アヤカはあらためて部屋を見回す。  静川家ほどではないものの清川家もなかなかに広い。掃除大変そうだな、とは思うほどに。 シエの部屋はというとそれはそれはシエらしく、穏やかな色合いで統一された中に少しぬいぐるみがあったりと可愛さも見えて、しかしそれらが悪目立ちすることなく落ち着いた雰囲気だ。 ……ちなみにアヤカの部屋はぬいぐるみも物も多いうえに写真もかなり飾っているせいか、よく言えば賑やか……そのまま言ってしまえばごちゃついている。  用意していた紅茶をアヤカの前に置くと、シエは「それで」と早速話を切り出した。 「相談……でしたよね?どうかしたんですか?」 「あー、その……」 途端にアヤカの表情が曇る。 よほど言いづらい事なのだろうかとシエは静かにそれを見つめた。  昨日、あの後アヤカから相談があるから二人で話したい、と言われて今日こうして集まったのだが……。 今まで遊びに来る時には愛が一緒だったりしたため、わざわざ指名されて二人きりで会ったことは無く「どうしたんだろうか」と気になって昨日はあまり寝付けなかった。  アヤカは少し黙ったあと。近くにあった、遊びに来た時にはいつも抱えている白うさぎのぬいぐるみを取ってそれを抱きしめた。 「あの、ね……。実は私、少し前から未来も見えるようになったんだ」 「そうなんですか?」 「まあのことは元々見えてたしそれで海豚っちとも会えたんだけど……明確に、先の未来が見えるようになったんだ。それで……いくつか、嫌なものが見えちゃって」 気まずそうに目を伏せるアヤカ。 少し前からということは……その間はずっと一人で悩んでいたのか、とシエは彼女の心境を思い眉を下げる。 「嫌な未来」となるとたしかに人には話しにくいだろう。 特にアヤカは昔、見えたものをそのまま言ったことによって不吉な子供だと差別されていた。 自分たち生徒会はそんな事言わない、大丈夫だと信じてはくれているだろうが、やはり口に出すのは抵抗があるよう。  シエはアヤカを見つめて、ぬいぐるみを抱きしめるその手に自らの手を重ねた。 「私たちは大丈夫ですよ」 アヤカはその言葉に口を結んだあと、複雑そうに目を閉じる。 そしてゆっくりと重い口を開いた。 「海豚っちが……珠喇っちを傷付ける未来が……見えたの」
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