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シエは目を見張って驚いた後、「傷付ける、未来……」と小さく繰り返す。
あれほど珠喇が好きだと言っている海豚が……珠喇を?
「詳しくは見えなかったから、誰かに操られてるんだと思う。それこそ、ブレイカーのせいなのかも……」
アヤカはそのまま、でも、とシエの目を不安そうに見上げた。
「海豚っち……すごく悲しそうな顔してたの」
一瞬見えただけの光景。
ちゃんと見えたというより、そう感じたという方が正しいのかもしれない。
ただハッキリ、海豚の悲しそうな顔だけは見えた。
どうやって攻撃しているのか、その状況は何も見えなかったのに……それだけはハッキリと。
それがずっと、アヤカの頭から離れなかった。
「……あんな顔、して欲しくない。でもその顔以外の他のことが分からなさすぎて……どうしていいか分からなかったし、きっと悪い夢でも見たと思ってた。でも昨日ブレイカーの力がなんとなく予想されて……きっとそれだ、って現実的に思えちゃったの」
アヤカはぬいぐるみを抱きしめる手に力を入れていく。
「どうやったら海豚っちを助けられるんだろう」
小さくなったアヤカを見たままシエは何も掛ける言葉が思いつかなかった。
大好きな人が悲しみながら仲間を傷つけている未来を自分が見てしまったら、なんて……考えるだけでゾッとする。
その後も、どうにか出来ないか一人で必死で考えて、でも信じたくなくて……。
口に出したら本当のことになるかもとか、思ってしまうかもしれない。
それを、アヤカは。
シエは胸が張り裂けそうな思いになり、たまらずアヤカを抱きしめた。
上手く言えないけど、でも。
「ありがとうアヤカさん。私たちに嫌な思いさせないように、ずっと一人で抱えてくれて……。そしてこうして、勇気を出して言ってくれて」
「会長……」
「未来が見えたなら、それを防ぐために作戦を立てることが出来ます。構えることが出来ます。……だから」
シエは少し体を離して、優しく微笑む。
「ありがとう。アヤカさんのおかげで、私たちは最悪の未来を回避出来る」
アヤカは少し驚いたままシエを見つめ、その目に涙を浮かべた後。やがてくしゃりと顔を歪ませて涙を流した。
それを抱きしめて、シエは静かに背を撫でる。
どれほど不安だったのだろう。それなのにいつも笑顔を絶やさないでいてくれた。
彼女の明るさに、今までどれだけ助けられたか。
そんな彼女に頼ってもらえるのが……こんなに嬉しい。
「……ありがとうございます」
微笑んでから、震えるその背を強く抱き締めた。
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