黒瀧の首

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「言いつけを守れなかったみたいだから、約束のお金はあげないわ。あなたは報酬を貰い損ねたのよ」 「金なんかいらねえよ。おまえが黒瀧殺しの罪を被ってくれさえすりゃあな」 私は三十八口径を素早く取り出し、女の手を掴んで、それを無理矢理に握らせた。 「何すんのよ。気持ち悪いわね」 女は発情期の牝猫のような声を絞り出して暴れた。しかし私の腕力のほうが勝っていた。女は無理矢理握らされた拳銃を口に咥え込まされている。 「やめてよ」 「おまえは黒瀧に組の金を盗らせて独り占めした。十九年も黒瀧に怯え続けたが、辛抱できなくなってついに黒瀧を殺害。そして自殺。警察はこの筋書きで満足するさ。だが全国の親分衆は黒瀧を仕留めたのが本当は誰なのかを知っている。俺は親分の無念を晴らした男の中の男として極道界で尊敬される、というわけさ」 やがて引き金に掛かった女の指に重なった私の指が、それを力任せに後退させた。 轟音と共に弾丸は女の後頭部から抜け、座席の後ろを血に染めた。 女は絶命してハンドルに凭れた。ホーンボタンが女に押され、クラクションが止めどなく鳴り続けた。 黒瀧の首を切断した出刃包丁を女の手に握らせ、指紋を付着させた。出刃包丁を後部座席に放り投げた。 ドアを開けて車外に降り立った。スポーツバッグを左手に提げ、後ろも振り返らずに歩き出した。やがてクラクションの音が背後に遠くなり、何も聞こえなくなった。 了
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