19人が本棚に入れています
本棚に追加
おしぼりを使い、拳銃に付着した指紋をあらかた拭き取った。六連発のうち五発を撃って弾丸一発を残した拳銃を、スポーツバッグに押し込んだ。
私は左手に巻いた安時計に視線を走らせた。現在の時刻を確かめ、それから店内に視線を走らせた。店は想像していた以上に安普請だった。銃声はほぼ確実に外へ漏れてしまっていることだろう。通りすがりのお節介な誰かが警察に通報したとして、警察が駆けつけるまでに最短で十五分。遅くても二十五分以内といったところか。
急がねばならない。
十分間だ。十分間以内で手早く済ませなければならない。私はスポーツバッグを手にしてカウンターを乗り越え、黒瀧の亡骸の脇に降り立った。カウンター裏をざっと見渡し、備え付けてある出刃包丁を選んで手に取った。物にこだわる黒瀧らしく、出刃包丁は本格的な切れ味を持った業物だ。これで切れないものなど無さそうだ。
スポーツバッグから雨合羽を取り出し、それを羽織って反り血に備えた。
黒瀧の亡骸をうつ伏せに寝かせた。頸に出刃包丁をあてがった。脛椎と脛椎の間を探り、出刃包丁の峰に左手をあてがい、全体重を乗せた。
胴体を離れた黒瀧の頭部を、あらかじめ用意して来たビニール袋で何重にもくるんでからガムテープで厳重に口を綴じ、外気から遮断すると共に密封した。それを慎重に持ち上げ、スポーツバッグに格納した。脱いだ雨合羽も一緒に押し込んだ。出刃包丁も忘れずに納めた。もちろん指紋は拭き取ってある。最後の仕上げに、私が手を触れ、口をつけた食器の類いもすべてバッグに押し込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!