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山のような薪を前に「ああ」と言って、サジュームは鉈を放り投げた。
茶でも飲もうと、火のそばにやかんを置き、そばに座って揺らめく火を眺めていると火の向こうになにか人の姿が見えた。
ハッとして立ち上がると、そこには月の光が一人の女性の姿を浮き上がらせていた。
「だれだ」
サジュームが警戒した低い声で問うと、その女性はしばらくサジュームを見つめ、
「私が見えるの?」
と言った。
鈴が風に吹かれたような、とぎれとぎれの澄んだ声だった。
「だれだ」
とサジュームは、問い掛けに答えず再び聞いた。すると、その女性はそばのアメリアを指さし、「私はこの子」と言った。
サジュームは注意深く女を見た。その女性は、まるで霞が立ち上って形づくっているかのようなはんなりとした姿で、それが月明かりのお陰で明瞭な姿に見えているようだった。
「亡霊か。あるいは…精霊?」
全く恐ろしさを感じないその女性に、サジュームは不思議な懐かしさを覚えた。
「そうね、そんなもんね」
と女性は関心が無さそうに答えた。
「アメリアに憑いているのか?」
「どうかしら…」
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