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割れたたまごは
しばらくして僕は村西さんの許可を得てマンションに戻った。
清掃業者に依頼したのか、ポストはきれいになっていた。ぴかぴか光って、むしろ落書きをされる前よりきれいなように見えた。
黒い人影の正体は、警察を呼んだ直後にあっさりと判明していた。
廉が数年前に半年ほど付き合っていたという、元モデル。今はアパレル系の会社に勤めている。
僕が警察官に話した男の特徴を聞いて、廉はすぐにぴんと来ていたのだそうだ。警察にも事務所にも伝えず、個人的に連絡を取って聞き出したらしい。そのことでも、廉は村西さんから叱られた。
結果、彼には警察からの厳重注意が与えられた。
でも落書きはその人のしたことではなかった。いわゆるアリバイがあったそうだ。書かれたと思しき日には、遠方の友人の元にいて、その証拠もあるそうだ。防犯カメラは出入り口の自動ドアに向いた物しかなく、「犯人」は映っていなかった。
これが事の顛末。
ごめん…本当に。
電話越しに、廉の声は疲労していた。謝る言葉しか、最近は聞いてない。
廉のせいじゃ、ないから。
僕も同じ言葉を返す。心から思っていることなのに、それは空虚だった。
そいつとは…相手とは、別れてからなにもなかった。会ってもいないし連絡も取ってなかった。
それを疑ってはいない。
ただ今度のことは、人の普段はみせない感情や、抑制しているものを掘り起こしてしまったのだと思った。いとも簡単に。
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