epilogue 本屋さん

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ビルに貼られたポスターはまた変わった。黒髪の廉は新鮮だ。髪の長さも、知り合ってから今がいちばん長い。驚いたことに着流しの和装と、紅を刷いたまぶたに緑の唇。色気がある、と思う。 まぶたにつけた方が口紅で、唇の緑はアイシャドウなのだそうだ。そういう裏話を聞くのは楽しかったし、特別な気がする。そうやって廉は大小さまざまの「特別」を僕に贈ってくれる。 以前の僕たちの部屋の鍵は交換して、お守り代わりにした。いつも持っている。 「今住んでるマンションの鍵は、晴が来たときにあげる」と言っていた。「いつでも来ていいよ。アポ無しでも。むしろアポ無しだったらうれしい」と。 僕の…恋人。 ポケットの鍵をそっとにぎりしめた。 僕のことを守ってくれて、僕がなによりも守りたいひと。 強くなりたい。 強くなって、自分の守りたいものを、居場所を、守りたい。 たとえば家族に打ち明けたからといって、いきなり突然目の前が開けて雲散霧消して、幸せな結末がやって来るわけじゃない。それはわかっている。ただ、少しずつでも変えていきたいと思う。 僕はディスプレイし終えた「恋ふた」のコーナーを少し離れてながめる。店内中央の広い台に、全巻に加えて関連書籍まで平積みされた風景は壮観だ。店舗用の記録としての写真を撮り、ついでに自分のスマホでも撮った。廉に送信するつもりで。やりすぎじゃない? って笑うかもしれない。 あのときもらった小さな本もいっしょに置いた。とても暖かくなる内容だから、たくさんの人に広まってほしい。廉と僕しか知らない秘密も、そこにこっそり織り込まれている。表紙を撫でた。 そろそろ開店の時間だ。僕は通りかかる棚の本たちを整えながら、その場を去る。 ふたつならんだたまご。 寄りかかったり、少し離れたり傷ついてひび割れたりしながら、今日もいっしょにとなりにいる。 終わり
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