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さらりと、涼やかな風が梅を香らせる。
まだ一月の末、春風に染まり始めた、「寒い」より「冷たい」が似合う心地いい風。
ほころびはじめた小さな梅の花が、ぽつぽつと雲の浮かぶ蒼空に揺れる。
さあっと吹き抜けていく空に花びらが飛ばされて、私の長い髪がそよいだ。
「……気持ちいい……」
澄んだ空気。
はーっと息をつくと、神聖に静まり返った境内に私の吐息がすっと沁みる。
本当に気持ちいい。冬が終わりかけて、でもまだ春には遠いこの季節が、私は一番好きだ。
一月の終わり頃から、二月いっぱいにかけて。
清々しい季節の匂いが、触れる空気が大好きだ。それに、一年でいちばん体が生き生きして、心が弾む。
私が梅の霊で、この時期が開花時期になるから。
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