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「あれ?」
ふと、同じく境内のはじっこのほう。
《見慣れた姿》が目に入った。
知らない制服。
知らない後ろ姿。
なのに、ふと懐かしい気持ちになった。
誰かと、重なる。
――――誰、だろう。
ゆっくりと立ち上がって、その見たことのない男の子をじっと見つめる。
さあっと風が、涼やかに吹いて。
葉がひとひら、ふたひら、舞い上がる。
『なあ、道真様、お前が気に入ったみたいだぞ。よかったな』
よみがえる声。
……千年以上、前だ。
もう千年も、ずっと、聞いていなかった。
思わず、足がふらっと前に出た。
惹き寄せられるように、後ろ姿から目が離せない。
誰だっけ。
あの笑顔、あの声、あの背中、あの……
『ひめっ!!!!』
脳内にこだまする、叫び声。
ハッと目を見開いた次の瞬間、するりと名前が口をついた。
「 ?」
とけてしまいそうなかすかな声を聴き取って……そうだ、いつも私の言葉に耳を澄ませてくれた、男の子が勢いよく振り返る。
風がかすかに煌めいて、焦点が定まるように、パチッと私と目が合った。
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