魔法少女は34歳 本編

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 そのほとんどがパピプペポの五音だけで構成された愛らしい効果音を発しながら、小さなロケットがまるで打ち上げられた花火のように輝きながら空を突き進む。  空中で少しばかりやけくそにも見える急ターンをし、玲奈ことマジカル☆レーナに、可愛らしい音と光に反して凄まじいスピードで舞いあがったロケットに目眩を隠せないらしいロートス・イーターが 「……お前の使うものは、何故みな、こういう騒々しい音が出るのだ?」  ごくごく素朴な疑問を小声で問いかける。玲奈が真顔を崩すことなくいつもと変わらぬ返事を返した。 「魔法少女ですから」 「そういうものか」 「それ以外に理由などありません。……目標の群れを捉えました」 「我々セイレーンは音に敏感だ。こんな騒々しい音を出していればこちらの存在など、すぐに気付くだろう」  遠くで旋回するセイレーン達の群れが、こちらに気付いたらしく次々に隊列を乱す。 「殺到してくるぞ」 「手間が省けて何よりです。ジェットロケット、そのまま空中で静止。……北陸支局管轄『魔法アイドル♪らららおんぷバトラー8!』より『スペシャルコンサートステージ』をフィールド転送許可願います。ケース5472『コードネームLE』ロートス・イーターの歌声と同期」  コンパクトが輝きだして、リボンや宝石で彩られた虹色のマイクが顕現する。そしてふわりと空中を浮いて、ロートス・イーターの前で静止する。 「………そのマイクは『歌に力がある魔法少女達』が使っているものです。あなたは魔法少女ではありませんが、使ってみることを推奨します」 「これを、どう使うのだ」  きらきらとしたデコレーションが全体に施されている、宝石やらリボンやらが華やかに光るマイクをつまみ上げ、ロートス・イーターが困惑を隠せない顔で玲奈に問う。 「えっと、その……上下が逆です。そこの、そう、中心にある、光る丸い宝石を押してください。それで、その丸い部分に向かって、歌ってみてください」  金の翼のセイレーンの男が、魔法少女達が使っている魔法のマイクを言われた通りに、不慣れな形で握りしめる。視界が風邪を引きそうな、あまりのアンバランスなその様に、玲奈は (きっと今の私と同じ様な姿なんでしょうね)  小さく頭を振った。 「これで、雌どもに、命じれば良いのだな」  玲奈が、息を少し吐いて頭を上げ、ロートス・イーターを正面から見つめて言った。 「町を守るための手段がそこにある。ならばなんであろうと使用するのが中部支局長の役目です。そして、誰かがもっと良く生きたいと願うなら、それを叶える手助けをするのが魔法少女の力」 「お前は、何が言いたい」 「………けれど、あなたは、いつか海の王になるのでしょう。あの女性達を統べる存在に。踏み躙られるだけの一匹の雄ではなく、海を統べる一人の男に。ならばあれは雌ではなく、いつかはあなたに仕える女達です。それを雌にするか、女にするか、決めるのはあなた」 「……」 「あれだけの酷い蹂躙を許せとは言いません。復讐したければそれも良い。けれど、あなたは、あなたの瞳は、幸せになる権利を、夢を、決して捨ててはいない」  空中できらめくロケットの上で、玲奈の魔法少女のコスチュームについた長いリボンが揺れて、ロートス・イーターの視線を揺らす。 「だから、そんなあなたを助けて良かったと、私は思っています。あなたには信じるだけの価値がある。……マジカルステッキ換装。音声認識を再度開始します。『ひらけ♪わたしたちのスペシャルステージ☆』」  片手で操縦桿を握り、もう片手でかざしたステッキが、空の色をまるでアイドルのライブのステージの様にカラフルに染め上げる。宙に浮かび上がる様々な楽器やスピーカー達が歓声を上げるように賑やかに音を立てた。 「レーナ」  ロートス・イーターが空を仰ぎ、波のように押し寄せてくるセイレーン達の群れを見つめて、言った。 「おれの中にある海を、お前にも見せよう」
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