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まるで滑る落ちるように助手席に崩れ落ち目を閉じた男が、眉を強く寄せ呻き声を上げ、身体を苦しげに曲げる。
(うなされている……?)
発見した時に本人が語った通りだとすると、それも当たり前のことだろう。平然と振る舞ってはいたが、腕や肋骨が折れるほどの蹂躙を何日も受けて、正気でいるほうが難しい。玲奈は片手でハンドルを握ったまま、もう片手でマジカルヒーラーステッキを再度灯し、
『マジカルヒーラーステッキ、ルルルヒーリング♪イリュージョン』
助手席の男の身体全体に優しい光を注いでやる。そしてもう片方の手で、車のダッシュボードを開けて、まるで女の子が生まれて初めてクリスマスで貰うおもちゃにも似た、あちこちに愛らしい装飾がキラキラ輝くノートパソコンを引っ張り出す。スイッチを入れると盛大に
『マジカルトィンクル☆ノートパソコンへようこそ!』
音声が響くが、ロートス・イーターが反応する気配はなかった。そっと息を吐き玲奈はキラキラしたスイッチを入れる。
『……ケース5472音声入力登録開始。怪我をしたセイレーンを一体保護。JMGAデータベースの過去出現した敵性生物一覧を検索するも該当なし。保護したセイレーンは海洋生物と見られるため東日本エリアで活動していた「魔法少女隊ラブ・マーメイド☆ピーチ・マジック【機種依存文字:ハート青】」活動期間中のデータ、およびセイレーン関連データもレファレンス要請』
この可愛さに全てを全振りしたようなノートパソコンも、魔法少女協会の正規支給品だった。
『怪我が癒えるまで中部支局長のアパートメントにて保護。念の為今夜中にもシールド施工を要請、以上』
やるべきことを速やかに終え、玲奈はノートパソコンを閉じ、まだ少し唸り声を漏らして目を固く閉じているロートス・イーターの額に手を伸ばす。
「熱が……」
カーナビに自宅までの最短距離を表示させ、アクセルを全開にする。そして眼鏡を手の甲で押し上げてから、車のハンドルを片手に、ステッキをもう片手で握り
『マジカルヒーラーステッキ、スペシャルハイパー☆イリュージョン。ラララ♪きらめけいのちの力よ』
猛スピードで発進した車内で、玲奈は現役時代にも数度しか使わなかった最大呪文を、いつもの事務的極まりない口調で、何十年かぶりに口にした。
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