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苦しそうに眉を寄せたまま眠るロウの寝顔を見つめ、また痩せたなと思う。日に日に頬の肉が落ち、目の下の隈は濃くなっていく。目の前の男が弱っていくのに、おれは何もできない。
おれが来てすぐの頃は、ロウもまだ調子が良い日が多く、そういう時はからからと車椅子を自分で動かして散歩に行ったり、「どうした坊主」と考え事をしているおれの顔を覗き込んだり、昼寝しているおれの鼻をつまんでからかってきたのに、最近はその元気もない。
ロウはう、う、と絞り出すような低い声でうめく。額には脂汗が滲み、寝苦しそうに何度も寝返りを打つ。押し殺すようだった呼吸が次第に荒くなり、あぁ、と苦痛に満ちた悲鳴を上げる。布団に投げ出されていた両腕ががしりと先の無い右足を掴んだ。痛むのか。それとも足を失った時の悪夢でも見ているのだろうか。
「ロウ」
堪えきれなくなって名前を呼んだ。それぐらいで楽になるとは一つも思っていないけれど。
当然のようにロウからの反応はない。ぜぇはぁと薄い胸を上下させて荒い息を吐くだけだ。
肉を剥がれ骨を断たれる痛みの追体験に苦しみ続けるロウの顔を覗き込みながら、おれはビスにいつまでこの男の世話をすればいいのかと尋ねたことを思い出す。
あの時ビスは一瞬ひどく驚いたように目を見開き、「そうだよな」と寂しげに笑ったっけ。
「安心してくれ。そう長くはかからない」
聞けばロウは戦地で負った傷と重なるように発症した病のせいでもうじき死ぬという。
「本当なら俺が世話してやりたいところだが、そうもいかなくてね。だから頼む。あまり苦しまずに逝けるよう手伝ってやってくれ」
あの時のおれは、どうして自分が、と不満に思いながらもとりあえずうなずいたんだ。
だけど今は、この男を看取れる人間が見ず知らずのガキであるおれしかいないということが、ロウの特別になれたようで嬉しかった。ひどい思い上がりだということはわかっているけれど。
でもおれはここに来なければ、飢えることなく腹一杯に食べれることも、「おい坊主」とからかうように声をかけられるくすぐったさも、体を拭くたびに気持ち良さそうな顔をして礼を言われる時の温かな心地も何も知らなかった。
「……ロウ」
もう一度名前を呼んだ。やはり返事はない。
声が届かない代わりに、おれはロウの足を腿から膝へと宥めるように撫でさする。少しでも苦痛が和らぐように。
「うぁ、ああぁ、はぁっ、ぅぐ……っ」
苦しそうな呼吸の間に、時折うわごとのようなかすかな声が混じる。
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