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私が生まれる少し前、母はホストだった父の酒癖の悪さとDVに恐怖を覚えて離婚したらしい。
その後、生まれた赤子が唯一の生きる希望となったのだろう。
母は良く、口癖のように告げていた言葉がある。
゙ 可愛い、私のお人形…未來 ゙
物心付く頃に、首を絞めながら言われたから印象によく残ってる。
泣くと首を絞めて強制的に泣くのを止めさせ、それが上手く出来たら優しく優しく壊れ物を扱うように抱き締めて、愛してると囁くんだ。
子供は次第に泣くことを止めた、笑うことを止めた、騒ぐことも、口を開くこともやめて只、生きる術として母の理想となる゙お人形 ゙を完璧に演じきることにした。
だからなのか小学生の頃は、よくイジメを受けていたような気がする。
「 おい、根暗。御前…なんしても、なんも言わねぇよな! 」
「 おーい、コイツを怒らせた奴には、今日の俺のゼリーやるわ 」
「 マジで!? 」「 本当!?やるやる! 」
困らせたやつ20点、怒らせたやつ30点、泣かせたやつ50点、笑わせたやつはもれなく100点
表情一つに点数がついて、其れが出来た生徒はポイントによって、言い出しっぺのとある生徒から、好きな給食を貰えることに喜んでたみたい。
「 おい、笑えよ 」
「 ………… 」
事の発端である、狗谷 智希
私の住んでる、家の真隣に住んでる事もあり、肩書きは幼馴染みってものなんだろうけど、
実際は学年一の悪がきでいじめっ子。
サラサラの黒髪に、日本人離れしたアンダー色の瞳が狼っぽいって事もあり、女子は格好いいとかでキャーキャー言ってるのをいつも聞くけど…
私に対するいじめが酷いから、何も思わない対象だ。
「 コレの何が…おもしろいの? 」
ノートを引きちぎった紙に書かれたのは、ミートボール二つにウィンナーが付いたような絵
それを机を叩くように置かれたのをじっと見詰めてから見上げれば、彼は子供らしからぬ位に眉間にシワを寄せた。
「 ハァ!?チンコって面白いだろ! 」
「 そう……? 」
そう言えば、さっきこの絵を見てゲラゲラと男子は笑って、女子はキャーキャー騒いでたのを見た気がする。
「( これが面白いんだ… )」
きっと笑うことで、彼等はそれを楽しのだと思って、不出来な笑みを浮かべ乾いた笑い声を上げてみせた。
「 はははは、わーおもしろいー 」
「 テメェ、俺をバカにしてんのかよ!?クソ!!コケシが!! 」
「( あれ……笑い方、間違えた…? )」
どうやら怒らせたようで、彼は背を向けて離れていくのを見て、私はもう一度紙へと視線を落とす。
「( これがチンコ…。チンコって何? )」
母親しかいなかった私に、男性の性器なんて分かるはずもなく、只不思議そうにそれを眺めて、貰い物だと判断して机の中へと入れた。
「 コケシのやつ、チンコも知らねぇんだってさ! 」
「 あははは! 」
「 じゃ、智希が言ったんだから見せてやれよ! 」
「 あ!?なんで俺なんだよ!まて、ちょっ!!! 」
その数日後、彼は笑ってる男子生徒に掴まり、掃除時間中に複数人に取り押さえられ、ただ箒を持って突っ立てる私の前で、ズボンと共に下着を脱がさられた。
「「 キャァァア!! 」」
女子のピンク色の声が響く中、私は彼とその下半身をガン見していた。
「 っ!!? 」
「 おらおら、どうよ。コケシ!これがチンコだぜ? 」
「 なんか感想を言ってやれよ 」
硬直し、顔を林檎のように真っ赤に染めてる智希と茶化す男子生徒
どんな答えを言えば正解なのか分からず、思ったことを伝えた。
「 絵より、小さいんだね 」
「 っ!!ば、バカがっ!!! 」
素直な感想なのに、馬鹿と言われて智希は男子の手を振り払って、パンツを持ち上げながらお尻を出したまま教室を飛び出した。
それを見て、男子達は私へと指を差す。
「 もっと笑えよ! 」
「 他にも反応あるだろうが!! 」
「 コケシのせいで、智希が泣いたじゃんか!! 」
「( 彼は泣いたのか… )」
謝る必要が出来た事に、少しだけ申し訳無く思う。
彼は下校の時間まで姿を見せる事はなく、翌日から、私と顔を合わせることをしなかった。
それでも、一度始めたゲームは誰かしらがやることでクラスが代わっても続いていた。
前髪がぱっつんに切られてるコケシのようで、
全く笑いも、泣きも、怒りもしない私にそれ等をしたら優勝。
でも、子供は直ぐに飽きが来て詰まらなくなれば離れていく。
小5の頃には、それ等をする生徒は存在せず、私はクラスでいないような存在として接しられていた。
お人形は下手なことは喋らない、感情を出さない
そう、思っていたのに…
彼だけは違った。
「 笑えよ 」
まともに目線を合わせる事をしないのに、其れでも何歳になっても、笑わせることだけを目的にしてるような、不思議な幼馴染みで…
その日は、横髪の左右に盛大な寝癖が付いてることに驚いた。
「 寝癖…ついてる 」
「 は?どこ? 」
いつもサラサラで、寝癖なんて無いような彼なのに、ひょこんと跳ねた寝癖に私は自然と吹き出して笑っていた。
「 ふふっ、ネコのお耳みたい! 」
「 っ!! 」
きっと初めて、笑ったと思う。
その位、笑顔なんて見せなかったからこそ
誰もいない朝一番の教室で笑えば、
彼は大きく目を見開いてから、寝癖を隠すように髪に手を当て視線を外した。
「 馬鹿が……、こんなので…笑うのかよ… 」
「 だって、ネコさんみたいだし。私、ネコさん好きだよ 」
「 じゃ、暁の公園に野良猫いるの知ってんの? 」
「 え、知らない… 」
「 じゃっ、じゃっ…教えてやるよ。めっちゃ野良猫いるから、マジで! 」
それから、彼と二人で近所の公園に行って野良猫と戯れたり、暇さえあれば探検のように猫を探して、地域を歩き回っていた。
それは、同じ中学に入っても同じだったんだ。
普段はお互いに関心さえ持たず、関わりすら無いけれど、放課後だけは違った。
狼のようだと言われてる彼は、私に合わせて猫が好きな男子へとなっていた
「 ねぇー。アカツキー? 」
「 ナゥー…… 」
成人してから、暁の公園で拾ったサビ柄のオス猫を゙ アカツキ ゙と名付けて、八年間飼う程には、私はネコ派なんだ。
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