3

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

3

 手堅い正社員の道を探すでもなく、何か面白い仕事はないかと探した結果、イイ女に手っ取り早く近づけそうな仕事を見つけた。  水商売の黒服なら艶かしく着飾った女達に近づける。甘く考えていた僕は面接で、強面の店長に凄まれた。 「キャストと恋愛したら罰金300万、まさかそういうの目当てじゃねえよな?恋愛の意味はわかるか、てめえは」 「ホステスさんと恋愛…そのつまり…深い間柄になると罰金300万ってことですよね?」 「半分正解。ホステスじゃなくキャスト。ホステス呼びは機嫌を損ねるから禁句。言い換えはまあまあ上手い方だな。とりあえずやってみろ、使えなきゃクビ。それだけだ」 「…はい…」 「黒服同士は縦社会、返事はハッキリしろ」 「はい!」 「ウィッスや押忍を好む奴もいるから相手をみて変えていけ、はいを好む奴もいるにはいる。この世界はコミュニケーションが全てだ。相手の考えを読んで気を遣える奴が伸びる。キャストも黒服もな」 「はい、頑張ります」 面接で一生分の冷や汗をかき、黒服として働くことになった。掃除、買い出し、食器洗い、やってもやっても次々と仕事がある。新人の黒服としてしごかれてる。先輩黒服達は店長や時々現れるオーナーの目を盗んでお喋りやスマホ弄りをして、仕事を押し付ける。 イイ女に近づけないどころか、仕事の用事以外でキャストと呼ばれる女達を見る余裕もない。ただ、劇団時代によく行っていた安い居酒屋とは違う、妙な熱気と華やかさ、そこはかとなく漂う毒々しさが魅力的に見えた。 先輩黒服のしごきにも耐えて、3ヶ月もすると何とか一通り仕事を覚えてきた。その矢先…。まだ転げ落ちる坂道が続いてるなんて。いや、違う。道が陥没して落とし穴に落ちるように、暗闇に突き落とされた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!