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 僕はいつまでこの仕事をして、いつ辞めるべきなのか。父が差し出した素行調査の紙と求人票を改めて読む。素行調査の記録を見る限り、新店に移動する前、この仕事に就き始めた頃から記録されている。つまり、「性根が据わってねえ」という、店長の発言は素行調査に気づいていた可能性がある。新店は僕が移籍した頃、人手不足で猫の手も借りたいほど忙しかった。とりあえず人手不足を解消。素行調査で家族と揉めて僕が辞める前に人員を補充する。そういえば最近、店では黒服経験者が一人採用されたばがりだ。  僕はこの仕事を辞めて故郷に帰る。灯油のルート営業という仕事は面白いとは思えない。でも、生活必需品を扱う確実で安定した道だ。やってみよう。やってみて、どうしてもダメだったらそのときにまた考えよう。 「性根が据わってねえな」と、店長の呆れた顔が浮かぶ。「浮気ばかりするお前のせいで金しか信じられなくなったんだよ」とでも言いたげな、菜摘の鋭い視線。 菜摘が話していた道の話を思い出す。正しく歩きやすい道ほど抜け道を探したくなり、抜け道がなければ獣道を作るのが男。僕は正しい道はいつでも歩けるから大丈夫だと思い込んでいた。だから人が歩かない、興味をそそられる道ばかりを探していた。  だけど結局は、親のお膳立てが無ければ正しい道に戻るきっかけすら掴めなかった。悔しいけれど、それが現実だ。 「キリのいいところで辞めて、この会社の面接を受けて受かったらここで働きます。実家に戻らせて下さい」 黒服の縦社会、体育会系ノリが染みつき始めていた。 「どこで教わったのか知らないが、礼儀正しくなった。帰って来たら、それをどこで教わったか一切口にするんじゃないぞ」 父は、飲み込みたくない嫌いな苦い野菜でも咀嚼するような複雑な顔をしていた。黒服をやっていたなんて言える訳がない。故郷は田舎だから噂の種になり芽が出て花まで咲く。 「はい、口にしません」 こうして僕は、キリのいいところで黒服を辞めて地元に帰った。
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