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初めての恋人は、とても優しい人だった。例えるなら、春の野原に差し込む柔らかな陽だまりのような優しさを、制服のポケットから、ぽっと、差し出してくれるような人だった。
国語辞典の【良い人】の欄に、挿絵で君のモノクロ写真が入ればいいのにとすら思ったくらい良い人だった初めての恋人は、俺の思惑以上に、高校一年の夏を豊かなものにしてくれた。
とりあえずやらねばの精神で、夏休みの宿題を消化しに来る生徒たちを横目に。
俺たちは、たわいもない会話をしながら、返却された本を元居た棚に返す日々を繰り返した。
たったそれだけのことならば、数日で飽きが来るだろうと予測していた俺の推測を、初めての恋人は、良い意味で裏切ってくれた。
特進クラスの一組で勉強に苦労している話。
六月にあった中間テストで、なんとかクラスの平均点に全教科届いた話。
平均点に届いたら買ってもらえるはずだったゲーム機の購入を一ヶ月だけ待ってほしいと母親に言われた話。
夏休みの宿題が驚くほど多くて、夏休み初日に貰ったワークを、一秒で閉じた話。
どれも、とっても良い人な初めての恋人が、俺に聞かせてくれた話だった。
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