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出来事
ある日。
俺は、習い事に行っていた。
行っていた、というか、行く途中の道でその出来事は起きた。
家を出る。
俺の家はマンションだ。
一般的な20階建てのマンション。
最近の俺の趣味は、まずエレベーターのボタンを押す。もちろん下🔽。
そしてその直後に階段を駆け下りる。
それで、エレベーターか、階段か、どちらのほうが速いか、を勝負するのだ。
エレベーターが勝ったら、
「そっちから行ったほうが良かったか」
と後悔し、
階段が勝ったら、
「こっちのほうが速かった!」
と少し得をした気分になる。
だが、今日はエレベーターのほうがはやかったようだ。
まあ端から見たらただの迷惑行為だが。
それはともかく俺はマンションを出た。
いつもの道。
歩き慣れた道。
信号を渡る。
もう一つ信号がある。
そこで待つ。
ここの信号はあまり長くない。
たまーにある、極端に赤が長く、極端に青が短い、という信号ではない。
言うなれば、どっちも短いのだ。赤も、青も。
そんな事を考えている間に、信号が青になった。
俺は歩き出す。
視界に自転車が入る。
そこそこ俺の進行方向にぶつかりそうだったので、避けた。
だが、なんとなく視線は自転車の方を向いていた。
そして、俺が信号を渡り終わった瞬間。
俺は気がついた。
自転車に乗っている人物が、知っている人だということに。
それは、小学生後半のときに教育実習生として来ていた先生だったのだ。
その事に気づいたと同時に、彼女と目があった。
彼女が会釈する。
俺も会釈した。
それで終わり。
沈黙の再会。
そこからは普通に習い事へ行き、普通に帰ってきた。
この日はそれ以外特に何もなかった。
それを誰かに話すわけでもなく。
それは俺の小さなエピソードとして記憶のタンスに今でも入っている。
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