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もし、彼女と再び出会えたのなら、なんと声をかけるべきだろうか。いや、それ以前に話しかけることすら難しいかも……。
彼は溜息をついた。ラッシュアワー。すし詰めの満員電車で彼女を見つけるのは、そもそも無理に等しい。宝くじを一枚だけ買って当てるようなもの。至難の業だ。
しかしながら、神の導きか、もしくは悪魔のイタズラか、再会の日は突然にやってきた。
あの日と同じく、時間の奴隷となった人々が行き交う時刻。大量の乗客を吐いたり吸ったりを繰り返す電車に揺られる中、いつものように彼はつり革を握っていた。となりの人と肩をぶつけないように、目の前の座席にいる人の足を踏まないように注意しながら。
と、背筋に電撃が駆け抜けるような衝撃を覚えた。心を射抜くような視線。全身の肌が粟立つ。彼は、そっと首だけを動かして振り向く。
彼女が、彼を見つめていた。その口もとに微笑みをたたえて。その顔は間近にあった。
「また会えたね」
艶やかな唇が邂逅の喜びを告げる。
彼はなにか言いたげに口を動かしたが、言葉にできなかった。胸がキュッと締めつけられる。
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