勇気ある告白

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 彼は目を奪われていた。  目と目があった瞬間、彼女は意味深な笑みを浮かべた。閉まったドアにへばりつき、彼が目で追いかけようとしたときには、彼女はとっくに駅のホームへ降り立ち、人混みの中に紛れこんでいた。  ガラス張りのオフィスビルが朝陽を反射させる。車窓が光に覆われた。  ターミナル駅を越え、幾分か空いた車内。  なにが起きたのかわからず、彼はとりあえず心を落ち着かせようと、空いた席に腰をおろす。ひざの上でノートパソコンを広げ、今日の会議で使う資料の最終チェックをする。だが、まるで内容が頭に入ってこない。さらに、指が震えてキーボードが叩けなくなっていた。  気づけば、その日、彼は仕事中ずっと上の空であった。  次の日も、彼はどこかようすがおかしかった。行きと帰りの電車の中で、脳裏に焼きついた彼女の微笑みを探していた。不審者扱いされても言い逃れできない様相で。  仕事も食事もままならない。こんな気持ちは、彼の人生において味わったことのないものだった。目を閉じれば、あの瞬間がまざまざと浮かびあがり、息が苦しくなり、胸に痛みが走る。
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