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17 ハーゲンティ3
女はオリヴィエを試すように長い睫毛を見開きながら、兄のズボンの間にほっそりと青白い手を差し入れる。
「お兄さまの顎に手をやって、少し唇を開かせて。そうよ。上手くできなかったら先にお前を喰らってやるんだからね」
追い立てる声色に震えながらも、オリヴィエはたどたどしく指示を仰ぐ。
「……そうしたら?」
「お前も少し口を開いて、お兄様の口にくっつけるの。舌を入れてお兄様の舌を探してあげて、沢山お口の中を舐めてあげるといいわね」
「うん。分かった」
日頃から朝に晩にと兄の方から挨拶の口づけを唇にされていたので抵抗はなかった。しかし舌で舐めるというのはしたことがない。オリヴィエは兄の幼いながらも整った顔が真っ赤に染まっているのを見てどきどきと小さな胸の鼓動を早めた。
(兄さま。早く元気になって)
兄の荒い息をつく唇を開かせ、祈るような気持ちで己の唇をくっつけた。ふわりと柔らかな感覚を夢中でちゅ、ちゅっと口を押し付け、恐る恐る熱く唇を舐めると、兄は鼻から心地よさげな吐息を漏らし始めた。甘いキャンディーの味がする口づけにオリヴィエの身体にもむず痒さが生じる。
(どうしよ、お手洗いいきたくなる)
「ほら、お兄さま元気になってきたじゃない。もっとよ?」
オリヴィエも女に首筋を撫ぜられたり、敏感な内腿をなぞられているうちに頭の奥がふわふわとしてきた。
そうしている間に無意識なのか兄の舌が逆にオリヴィエの口内の方にまで及んでいき、初めて知る粘膜による接触に心臓が痛いほど高鳴り、身体は甘く痺れてとろとろと力を失くしていく。
(口付け、気持ちいい)
びくびくっと兄の身体が腰を中心に震えた時には、オリヴィエも兄の隣に横になって荒い吐息をつき、とろとろとした眠たさで半ば瞳を閉じかけた。
見上げた女が白魚のように嫋やかな指をぽってりと色づく口元に当て、青臭い何かを舐める仕草をしていたが、その時のオリヴィエにはそれが意味することが分からなかった。
「ふふふ。魔力の味が似ているわ。でもやはり、私にはお兄様じゃなきゃ」
「ハーゲンティ、様?」
「お前、この子が欲しいの?」
オリヴィエは頭にもやがかかったような状態だったが、むしろ本心を偽らずにこくりっと頷いた。
「じゃあ、この子は貴方にあげるわ。だから大人になったら、この子を連れてここへいらっしゃい。お兄様から××××を貰えなかった私の代わりに、今度こそ貴方がこの子に……」
そのまま兄を護るように抱きしめて眠ってしまったオリヴィエは気がついたら兄に負ぶわれて廊下を歩いていた。
「それが僕が覚えている、この部屋の記憶の全て」
兄が覚えていなかったあの日あったことをオリヴィエは何とか説明しきった。
二人して子どもの頃のようにまたこの寝台の上に寝転がり、兄の腕枕でオリヴィエはずっと頭を上から項の辺りまで優しく撫ぜ続けてもらっている。
優しい手つきに緊張し続けていた心がほぐれてしまい、こんな状況だというのにオリヴィエはうつらうつらと眠たくなってきてしまいそうだ。
しかし紫色が淫靡な設えの部屋の中には蠱惑的で甘い香のようなものがいまだ漂っていて、それがじわじわとオリヴィエの身体に染みこむほどに熱く疼いて火照り出す。兄も時折掠れた悩ましい吐息を漏らしているからオリヴィエと同じ欲望を身のうちに抱えていると思った。
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