6 甘いお仕置き

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6 甘いお仕置き

「なぜ隠すんだ?」  首をふるふると振って腰を上げ、兄の膝から逃れようとしたが兄は普段通りの優雅な仕草で手首を掴んで引き戻す。 「あうっ」  その手頸にも戒められた跡が残っていた。  抱きかかえられたまま仰ぎ見たレヴィアタンは端整さがむしろ恐ろしいほど綺麗な顔で、弟の手首の柔らかな部分を他と同じように舐め口づける。か細い手首を捉えたまま弟を横抱きにして両足の上に右腕を載せて動けなくしてしまった。  仰向けに兄を見つめれば、赤い瞳に少しだけ、カシスが自分に向けてきたような欲を見つけて息を飲む。オリヴィエは自分の体温がどんどんと上っていくのを感じ、兄の眼差しからわざと目を反らした。  ボタンが半ばはじけ飛び、合わせるだけになっていたシャツを捲られ、兄の視線を胸元に感じて息がどうしても恥ずかしさで乱れる。 「隠すな。全て見せるんだ」  普段は穏やかな兄が発した、有無を言わせぬ命令に背筋に冷たいものが這うほど恐ろしくも、兄の執着が透かしみえてどこか嬉しい自分もいる。  それでもやはり恥ずかしくてオリヴィエが胸元を隠そうとした腕を両手ごと大きな掌に捕まれ、胸のすぐ上で押さえつけられる。 「こんなところまで触らせたのか? あんなやつらに」  兄の長い髪先がもどかしくオリヴィエの胸の尖りを擽り、その刺激で硬くしこるのが自分でも分かった。羞恥で目元まで赤く染まった弟の顔をじっとレヴィアタンが探るように見つめてくる。 「そこは、いいから」 「駄目だ。腫れて痛そうだ」 「いや、駄目やめて、兄さま。レヴィアタン!」 (これがお仕置なの?)  聞きたいが恥ずかしくて聞けない。だが大好きな兄からされることをオリヴィエが拒めるはずもなく、腕の中でくたりと力を抜き瞼を閉じた。 「いい子だ」  先に噛み痕が生々しい胸の周りを熱い舌がねろりと舐めまわされる。ズキズキとした痛みはすぐに引いて治まったが、代わりにぞくぞくする感覚を訴える胸の先は兄の熱い口内に含まれたまま、こりこりと形が分かるほどに舌先で弄ばれる。 「ふうっ、ううっ、あっ……。ああ」  オリヴィエはイヤイヤするように髪を振り乱してその甘い疼きから逃れようとするが、カシスに触られた以上に兄が執拗にそこを舐め攻め立ててくる。  兄は散々弄んでから片方を水音を立てて唇を離すと、今度はもう片方に熱い息を吹きかける。手首の戒めが緩んだためオリヴィエは縋っているのか押さえつけているのか分からぬ悩ましい手つきで兄の頭を掻きむしった。 「ひうっ、あ……あんっ」  治療行為と呼ぶには生々しく、兄弟同士で行うには後ろめたさすら感じる触れ合い。  存分にそこを舐めしゃぶった兄の赤い瞳の瞳孔が爬虫類のそれのように金色に収縮し、オリヴィエの顔を覗きこんでくる。唇にはしまったはずの牙が僅かに戻り始めていた。 「他には?」  まだ完全に大人の男と呼ぶには滑らかな兄の頬を指先でなぞり、自分なぞに兄が夢中になって我を忘れそうになったことに、背徳的な喜びが腹の奥をじんっと熱くする。  オリヴィエは自らの唇に、形の良い桃色の爪先を置いて濡れた瞳で兄を見上げた。 「ここ」  ほっそりした指先を再び兄の大きな手で握り包まれながら、咲きたての薔薇のように赤い唇を薄っすら開いて兄を導く。 「んっ」  すぐに与えられた兄の唇は熱く柔らかく甘い。 (カシスとは全然違う。兄さまの口づけは、胸がぎゅうって苦しくなるけど、やめてほしくない)
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