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8 思い出
何もしなくても日常生活だけでむきむきと筋肉がついてくるレヴィアタンとは対照的に、抱きしめたら折れそうに細い肢体はいつでも傍にいて守ってあげたいと庇護欲をそそられる。砂嵐の中のおこもり生活も仲の良い弟と二人っきりで過ごせるという点では、なにより心地よく喜ばしい。
ちなみに今大勢いる兄弟の中で学生をしているのは自分たち二人だけで、一番上などもしかしたら祖父母ぐらいの年齢差だが、見た目が若いのでまあ兄弟感がないわけではない。
魔王はとにかく寿命が長いので、歴代の妻が何人もいる。共に暮らしてもおらず、その長い寿命の為にあまり添い遂げるという感覚がないのだ。
レヴィアタンは第四王妃の最後の子で、オリヴィエは魔王と人間の聖女、ルルウとの間に生まれた一粒種だ。
だから実の兄弟なのに二人はまるで似ていない。オリヴィエはぱっと見、人間そのものにも見える。魔力も親族の中ではかなり少なく、そのせいで幼い頃から散々周りにいじめられたり、ちょっかいを出されてきた。
聖女の母譲りの清らかな魔力が魔物にとっては餌のように誘惑的に感じるのと、もう半分は多分仔リスのようなオリヴィエがあまりにも愛くるしいせいだろう。
魔族のガキは好きな子をかなりしつこく苛める傾向があるのだ。
(我が弟ながら可愛すぎる。これで魔王の第十三王子だとは誰も思わないだろう。人間の国の王子様かもしくはお姫様みたいだ)
「兄さまってば、聞いてるの」
「ああ、ごめん」
「もう。城の中にいすぎてぼんやりしすぎ」
ぷくっと膨れた雪にほんのり薔薇色を落としたような頬も愛らしい。それが硝子細工のようにあまりに透き通った儚い美しさで、弟を見ていると愛おしすぎてレヴィアタンは切ない気持ちになるのだ。
弟は見た目通り、寿命も人間寄りで魔族にしては短いと言われている。
幼い頃に兄たちからこの残酷な事実を聞かされた時、レヴィアタンは衝撃を受けて数日眠れなかったほどだ。例え丸裸で寝ても病気一つしない自分とはまるで身体の作りが違うのだ。
それからどうしたら弟が怪我もせず健康に長く生きられるのかと常に気を配り心配している。
(ああ、リヴィを見てると可愛すぎて時々胸が痛くなる。俺にも優しくしてくれた亡くなられた義母のルルウ様に生き写しだ)
「またぼんやりしてる。兄さまって、父上にそっくりなのはその厳つい見た目と魔力量だけだよね」
「悪かったなあ。ぼんやりしてて」
「ふふ。僕は兄さまのそういうところも好きだよ。ねえ、兄さま。子どもの頃にさあ、赤い砂嵐の時には外に出られないから、二人でお城の中を沢山探検してまわったよね」
「そうだな」
幼い日。オリヴィエの小さな手を引いて二人で城の中を探検して歩いた。見た目の割に勇敢なオリヴィエは暗い場所も怖がらないから、こっそり示し合わせて寝台を抜け出して夜の城内も歩き回ったものだ。
「あの搭の部屋もその時見つけたよね」
頬を染めてオリヴィエが恥ずかしそうにそう言ってきたが、レヴィアタンはわりと鷹揚なところがあるのでそれには気づかず頷いた。
「そうだったな」
「真夜中に探検した時、迷子になったこともあったよね」
「そんなこともあったな」
長い廊下が迷路みたいで部屋に戻る道が分からなくなってしまったのだ。
まだ幼かった自分たちを揶揄うように、下級の魔物が周りで火柱を立てたり恐ろしい声で唸ったりして二人を脅かしてきた。
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