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彼の言葉が、どこまで本当なのかはわからない。ひょっとしたら天気を予報できる特別な知識でもあって、それで雨を正確に当てることができるというだけなのかもしれなかった。
確かなことは一つ。彼が雨を予告してくれるおかげで、クラスには僕を含めて助かる子が多かったということ。なんせ、事前にカサやカッパを準備することができるのだから。親に言えば、布団をほしっぱなしにして家を出る心配もなくなる。
元々カエルくんの噂を知っている人は少なからずいたが、七月にもなればカエルくんは“雨降りを当てる特別な能力者”だとか“蛙の生まれ変わり”だなんて言われてちょっとした人気者になっていたのだった。仲良しの僕も、ちょっぴり鼻が高いくらいに。
その上成績も良いし、変わり者だけど博識で話も面白い。顔も結構可愛いし、女の子にもモテる。
と、なれば当然。そんなカエルくんを面白く思わない人間も出てくるというわけだ。クラスに一人や二人、ガキ大将系のキャラはいたりいなかったりするものである。乱暴者のそいつーー名前を川口くんと言ったが。川口くんはいっつも取り巻きを連れて、偉そうに威張っている典型的なガキ大将だった。体も小学生離れして大きく、横幅もあるので影ではこっそり“ジャイアン”なんて呼ばれている人物である。
その彼が、カエルくんに目を付けた。
ある日仲間たちとカエルくんを取り囲んで、無茶な要求をしたのである。
「お前、雨があてられるとか大ボラ吹いてるらしーじゃねえか。いい気なもんだよなあ、女どもにちやほやされてよ!」
「大ボラじゃないよ。実際、雨が降るって言ったのは全部当たってるじゃんか」
「ははは、偶然だろお?もしくは、知り合いに天気予報士でもいて、全部教えて貰ってるだけじゃねーの?」
悔しいけれど、川口くんの言葉は筋が通ってしまっている。カエルくんが雨を当てられたのが偶然ではなかった、なんて言い切れる材料はどこにもない。僕は付き合いが長いから、彼の予告が百発百中であることは知っているけれど――まだ付き合いの浅いやつらは最近の予想しか聞いていないから尚更だろう。
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