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翌朝、目覚めた石田が一言、告げた。
「順序が逆になったけど、俺と付き合ってほしい」
一度寝たくらいで彼氏面、と言われないために、正式に言ってきたのだろうか。
「私には恋人がいる。だから、昨日のことは忘れて」
「……そうか」
諦めたのか食い下がろうとしているのか。表情が読めない。だから私は石田が苦手なんだ。
「恋人を裏切って浮気したひどい女なんか、やめた方がいい」
石田は私の顔をしばらく黙って見ていた。何も言わないので帰ろうと、あたりに散らばった服を拾い始めると、石田がぼそりと言う。
「倉橋だけが悪い訳じゃない」
なんだか恋人に責任転嫁されているように感じ、むっとした。悪いのは私だ。本当はむっとする資格さえない。
「浮気なんて、した方が悪いに決まってるじゃない」
「浮気は一人ではできないだろ。俺も悪い」
「石田は私に恋人がいることを知らなかった」
「知らなかったけど、想像はついてたから、聞かなかった。未必の故意。機会を逃したくなかった」
「最終的に選択したのは、私だよ」
「その選択をさせようと、仕向けた部分はある」
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