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埒が明かない。石田とは、どこまでも平行線だ。ああ、もう、面倒くさい。さっさと帰ろうとさっき拾った下着と服を身につけていると、ぎゅるるるとお腹が鳴った。
確かにお腹は空いたけど、このタイミングで。私の身体はどうして私を裏切るんだろう。
「朝飯、食ってったらいい」
無様な私を笑うでもなく、馬鹿にするでもなく。石田は淡々とそう言った。
結局、石田にごはんとお味噌汁と野菜炒めとお茶をごちそうになり、シャワーを借りて、帰った。お金を払おうとしたけど、石田は頑として受け取ろうとしなかった。
一宿一飯の恩義。どうして浮気相手に恩義を感じなければならないんだろう。気持ち悪い。近いうちに何かで清算しなければと思う。貸しは作ってもいい。でも、借りは作りたくない。
自分の部屋に戻り、湯船にお湯を張る。
タオルに石鹸をつけ、泡立て、身体を洗った。何度も、何度も。全てを洗い流したい。
湯船に身体を沈めると、お湯が溢れた。余計なものが溢れ出たのか、私の方が余計なのか。
なぜこんなことをしてしまったのか、わからない。
「何も感じないように、自由に感情が消せたらいいのに」
それができたら、こんな馬鹿なことはしなかったはずなのに。
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