あなたは泣いてもいい

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「なにこれ」 「今日の衣装」 「衣装?」 「金ねえから、あんまりいいもんじゃねえけど。似合いそうだと思って」  当日手渡されたのは、安っぽくて派手なショッキングピンクのカットソー。露出は高くないし、透けもしないからほっとする。  普段の私を知っている人は、まず選ばない服。  トイレで着替えて出てくると、石田が口笛を吹いた。 「Lucky Strike」 「え?」 「似合ってる」  古い建物に案内された。中に入り、螺旋階段を上る。ぐるぐるぐるぐる、だまし絵みたいにずっと同じところを廻っているように錯覚する。永遠に廻り続けるがいい。そんな呪いの言葉が聞こえるような気もする。でも現実は、動いた分だけきちんと上っていて、屋上に着いた。  扉を開くと、空が青い。私は詩的な表現が下手だ。芸術の才能が欠けているのだろう。空が青い。それしか浮かばない。  空をゆっくり切り裂くように、煙が立ち上る。  振り向くと、石田が蚊取り線香に火を着け、設置していた。 「煙草、吸ってるのかと思った」 「撮り終えてから吸う」 「火器、勝手に設置していいの?」 「知り合いの建物だし、許可も得てる」  石田は水道の蛇口をひねった。ホースから水が流れる。なるほど、蚊取り線香くらいなら、すぐ消せるだろう。  水道のそばに三脚を立てると、石田はカメラを固定した。
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