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それから二か月ほど、私は極力一人で過ごした。人と関わる気が全く起きなくて。あれだけ人からどう見られるかが気になっていたのに、そんなことはどうでもよくなっていた。
一人になるといろいろ考えてしまう。新卒カードをなるべく活かすことを考えた結果、金融業界を志望したけど、本当にそれがいいのかと言われたら、やっぱり違う。
私は大学院に進むことにした。才能がないとわかっていても、もっと時間をかけて勉強したいと思った。専門はアンデス地方のエル・ドラード伝説。
気づけば学園祭の季節だ。
各サークルが模擬店を出したり、公演や展示をしている。
写真部もロビーで展示をしていた。
石田の写真は二枚並べて飾ってあった。一枚はモノクロで、もう一枚はカラー。
モノクロの方はぐるぐる回る模様が写されていた。アンモナイトのような。しばらく眺めて、撮影した日の螺旋階段を上から撮ったものだと気づいた。上っている時はただただ同じものが繰り返されてるように思えたのに、上から見ると少しずつずれて、違うものになっていくんだ。タイトルが《死と再生》なのはどうかと思うけど。
もう一枚は私を大写しにしたものだった。でも、私だとわかる人は少ないと思う。普段の印象と全然違うから。
写真の中の私は、いつもだったら絶対に選ばない鮮やかな色の服を着て、全力で笑っている。自分でも見たことのない笑み。
ポートレートの下を見ると、横文字のタイトルが付けられていた。
《Licet tibi lacrimare.》
タイトルは見てすぐに読めないと駄目だろう。意味どころか、何語かさえよくわからない。本当に面倒な男だ。
スマホで検索をかけてみると、ラテン語の解説サイトが何個もひっかかった。出たよ、ラテン語。中学二年生御用達。
一番上に表示されたサイトを開いてみて、私はしばらく立ちすくんでしまった。
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