2人が本棚に入れています
本棚に追加
今日の予定は、ハードだ。朝から取引先に行き、ミスを謝罪し、その後新規獲得のプレゼンだ。
僕はバリバリ仕事をしている。なぜなら妻が妊娠中で今月には子どもが産まれるからだ。
僕はあの島から帰ったあと、普通に日常を過ごしていた。ただし、あらゆる事に感謝し、あらゆる事に一生懸命過ごしてきた。
その日も仕事をしていた。晴れていたから傘も持たずに会社を出たら、午後雨にふられてしまった。
僕は喫茶店に入り雨宿りをした。
そこで出会ったのが今の妻だ。
彼女が死んでもう恋愛なんかしないと思っていたのに、妻と会って僕の心は溶けた。
妻の優しさは、僕を溶かしやがて結婚をしたのだ。
そして妊娠をした。僕の子供は女の子だと言う。
会える日を楽しみに毎日を過ごしている。
僕は、島から帰ってから一度も島を訪れていない。
何故という理由などないけれど、行くことはなく僕は島を忘れていた。
しかしだ、今日のニュースを見てびっくりしたのだ。島は、リゾート開発をすると言う。
デベロッパーのCMが流れていた。
ニュースを聞いていて僕は違和感を感じた。
島は、50年近く放置されていたと言うのだ。
土地は荒れていて、廃屋がある映像が流れていた。
神社もボロボロになっていた。
デベロッパーは、ホテルをつくり、土地を整備し、神社を美しくしている映像が流れていた。
僕はどこに泊まったのだろう。女将さんは、ご主人は。僕は不安になってきた。
あの優しいみんなは一体誰だったのか。
ニュースは、その事実を僕に伝えた。
デベロッパーの開発の中で複数の死体が見つかったと言うのだ。その遺体が女将さんとご主人だった。
遺体の近くに身分のわかるものがあったのだ。
2人は、5年前に東京から失踪していた。
元々は、パワーストーンを売ってお客様を騙す詐欺をしていたという。
僕は怖くなってきた。僕が見てきたものはなんだったのだろうか。僕は当時描いた絵を押し入れから引っ張りだした。そこには、何も描かれてなかった。
僕はぼんやりとその場に立ち尽くした。
翌朝は晴れていた。日差しが眩しく僕の身体を温めた。今日の朝から妻は陣痛を訴え入院した。
僕はソワソワと赤ちゃんの産まれる時を待っている。
昼を過ぎた頃、分娩室がうるさくなってきた。
僕はいよいよ分娩室に呼ばれた。
痛さに苦しむ妻。妻を励ます、医者看護師。
僕は日常からかけ離れた空気に緊張した。
妻が息んだときだ、赤ちゃんが出て来た。
「おぎゃー。」
かわいい女の子が僕の前に現れた。
僕はふと龍が飛んだ気配を感じた。
空にはアイスクリームがあった。
最初のコメントを投稿しよう!