空に飛ぶ者たち

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翌日僕は朝ごはんの後、女将さんから聞いた温泉にむかった。今日も晴れていて気持ちが良い。 都会で生活していると道端に咲く花をゆっくり見ることなどあまりない。でもここでは、花たちが主役で僕らは脇役だ。良い香りが鼻腔をくすぐる。 僕は、歩いて10分の距離を20分もかけて歩いた。自然をいっぱいに吸い込んだ僕の身体は癒やされていく。 温泉には、誰もいなかった。 建物の玄関を入り料金箱にお金を入れると、脱衣所の鍵が貰える。僕は脱衣所で裸になり温泉の入り口の扉を開けた。 僕は身体を洗い温泉に入った。 目の前は、新緑の緑と青い海。 絵画を見ているような絶景だった。 僕はゆっくりと温まり、景色を満喫した。 人間は大人になると何でも知っている気分になってしまう。だけど自分の見ている世界なんて小さくて知らないことの方が多いのだ。そして知らないことの方が美しく、大切であるのかもしれない。 何だか哲学みたいなことを考えながら僕は散歩をした。この島をもっと知りたい。僕は自然を見ながら進んだ。 砂浜が左手に見える。僕は砂浜に降りた。 子どもの頃、親とともに訪れた海で貝殻を集めた。 貝殻の形も模様も様々で飽きずに拾い続けていた。 僕は近くに落ちていた貝殻を拾ってみた。 彼女だったらきっとアクセサリーにでもしただろう。彼女は、器用で何でも手作りしてしまう。 僕は夢中で貝殻を集めた。子どもみたいに。 貝殻集めにも飽きてしまうとまた僕は冒険をはじめた。今日はまた別の道から、公園に行く。 また階段を登るのは辛かったが、登った先の美しい景色は僕を癒やしてくれた。 今日は公園中を歩いてみた。 よく見るとこの公園の砂は、砂浜にあったものと同じで貝殻が混じっていた。そして、僕が登ったのとは別の方向に階段があった。 この階段は整備されておらず土と木で手作りされていた。僕は階段を降りてみた。階段は、木々に覆われていて、トンネルに入ったみたいな気持ちになった。 階段を降りきると、神社が現れた。小さなお社で少し水の匂いがする神社だった。僕は神社の鳥居をくぐった。鳥居をくぐると、左右に狛犬の石像があった。よく見ると狛犬ではなく龍だった。 僕はお社まで歩き、お参りをした。 そしてもと来た道を戻ろうとしたとき、強い風が吹いた。その風は冷たく水の匂いがした。 僕はそろそろ宿に帰ることにした。昼ごはんの時間は予め遅くしてもらっていたが、歩いたのでお腹が減っていた。 今日の昼ごはんは、ホットサンドだった。卵とハムが入っていておいしかった。僕はごはんを食べながら女将さんと今日散歩してきたことを話した。 「あら、たくさん歩いたのね。お風呂温かかったでしょう。私もよく利用するのよ。」 「はい、景色もきれいだし最高でした。そういえば、公園に神社があったのですね。」  「うん。そうね。昔はこの島にも人が住んでいたのよ。10世帯くらいだけどね。この島の産業といえば田畑を耕したり、漁師をしたりとか当たり前だけど自給自足のような生活だった。あの神社はたつの神社と言って、この島のあらゆる水を護ってきたの。今となれば私達くらいしかお参りしないから寂しいものですよ。」 「あの神社で僕強い風に吹かれて、びっくりしました。あんなに深い森だから強い風が吹くなんて思っていなくて。」 「珍しいわね。きっと、神様に好かれたのかもしれませんね。」 僕は一時間位女将さんと世間話をして自分の部屋に戻った。風呂に入ってゆっくりしているとまた眠くなってきた。夕食まで2時間くらい時間があったから僕は布団に横になった。女将さんが変えてくれた布団はふかふかでおひさまの匂いがした。 僕は、温かい布団に入り夢を見た。 「やっと会えるわね。」 また彼女が夢にやって来た。 誰に会えるのかわからなかったので彼女に聞いてみた。 「龍さんよ。あのウロコの持ち主。彼はあなたを友と思っているからきっと、私みたいに幸せな世界に連れて行ってくれるわよ。」 「君は今、幸せなの。」 「うん。とっても。」 彼女は、笑顔で消えて行った。 僕は彼女が幸せなことがただ嬉しくて寝ながら涙を流していた。
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