空に飛ぶ者たち

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僕はアラームで目を覚ました。時刻は12時。 真夜中に僕は着替えて宿の玄関を出る。 予め女将さんには、天体観測に行くと言ってあり懐中電灯も借りてあった。 僕は玄関を出て公園に向った。真夜中に歩いている人はいないし道は暗かったが月明かりに導かれながら僕は公園の階段を登って行った。 僕はいつものベンチの近くにある望遠鏡を覗いた。 星はキラキラとしていて宝石箱みたいだった。 僕はずっと空を眺めていたいと思った。 30分くらい経って僕はそろそろ宿に帰ろうと思いベンチに向った。少し喉が渇いたのでペットボトルのジュースを飲んだ。肉眼で見る景色も中々素敵だ。僕はこの島に来て本当に良かったと感じた。 「さてそろそろ帰ろう。」 僕はベンチから立ち上がった。 その時、強い風が僕の身体を包んだ。 僕は慌てて手で目を覆った。 やがて風が止んだので僕は目を開けた。 僕は自分の目を疑った。 僕の目の前は、七色に光っていたのだ。 懐中電灯などいらないくらいの光が空中に浮いていて蛇みたいに動いているのだ。 よく見ると、それは龍だった。角と立派なひげがあり、目はキラキラと強い眼差しをしている。   「ねえ、龍さん連れてきたよ。さあ、乗って。」 彼女だ。龍の頭の近くに彼女がいた。 彼女は無邪気な笑顔で一番気に入っていたワンピースを来て髪の毛にはワンピースと同じ柄のカチューシャをつけていた。 僕は、嬉しくて、嬉しくてその場を動かずただただ涙を流していた。本当は彼女のところに行って彼女を抱きしめて離したくなかった。  彼女は手からこぼれる砂みたいに僕から離れて行ってしまうから。 「もう。早くして。龍さん待っているじゃない。 何で泣いているの。」 彼女は僕を急かした。昔彼女と遊園地に行った時もそうだった。彼女は僕を急かした。 兎に角興味のあることを全てやりたくて、時間が足りないと言っていた。 また風が吹き僕の身体は浮いた。 気がつくと彼女の後ろに僕は座っていた。 「行くぞ。」 龍は空に向かって登って行く。 僕は少し怖かったが彼女は無邪気にはしゃいでいた。僕は彼女に触れてみた。 しかし彼女に触れる事はできなかった。 僕の手は彼女の中を通り抜けた。 生きていた時みたいに柔らかい肌はもうない。 僕は空の上から、島を見た。 島は緑が綺麗だった。よく見ると、公園からの道は龍によく似ていた。公園が龍の頭でそこから道が出ていてくねくねと島の中を飛んでいるみたいに見えた。 僕らは、空にポッカリと開いた穴に向った。 公園の神社から放たれる光が輪を作り穴みたいに見えているようだ。僕らはその穴に入って行く。 穴の中は光が満ち溢れていた。花がたくさん咲いていた。何だか良い匂いがしている。 僕らは花の道を進んだ。途中羽根をつけた人間が何人かいて花に水をやっていた。 彼女は身体いっぱいに花の匂いを感じているようだ。目を閉じて両手を広げていた。 しばらく進むと今度は森が現れた。 森には色々な動物がいた。リス、うさぎ、ぞう。 彼女が好きな動物たちだ。 僕は彼女と動物園に遊びに行った事があった。 彼女は動物が大好きで、あの日も無邪気に笑っていた。彼女はふれあいコーナーでモルモットを優しく撫でていた。僕は彼女の子どもみたいな笑顔が大好きだった。 僕はまた、泣いていた。 全部全部、彼女と過ごした月日は楽しかった。 僕らが次に来た場所は、川だった。 川は水飴みたいに透明で青い色をしていた。 川の中には、赤や、オレンジや黄色で、三角形や丸など様々な形をした魚が泳いでいた。 魚たちは、すいすいと泳いだり、ダンスをするみたいにくるくる回ったり飛んだりしていた。 「生きてるときには、経験できなかったのよ。だから今自分の好きな形や色をして楽しんでいるんだわ。」 彼女は僕にそう言った。彼女はこの世界でなにをやりたいのだろうか。生きてるときにできなかった彼女の何かは、彼女を苦しめやがて死の世界にダイブしたのだろうか。 僕は、彼女の苦しみをわかってあげれたのだろうか。僕は、彼女と一緒に歩いていたつもりで全く別の道をひとりで歩いていたのだろうか。 考えれば考えるほど思考回路は絡まっていった。
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