空に飛ぶ者たち

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僕らは、川と平行に進んだ。 龍は水面ギリギリを飛び僕は川に手を入れてみた。 水はとても冷たくて気持ちが良かった。 僕らは川の河口に来た。龍は一気に上昇した。 ジェットコースターみたいで僕の手は汗をかいている。彼女は楽しそうに騒いでいる。 彼女はジェットコースターが大好きで、嫌がる僕に一緒に乗りたいって言っていた。あの時はとても困ってしまった。 僕らが上昇した先は、夜の世界だった。 満天の星。あちこちから流れ星が落ちてくる。 彼女は流れ星を掴んで食べている。 僕はとてもびっくりして彼女を止めたが、彼女はチョコレートの味がすると言った。 僕らはキラキラな星の世界を楽しんだ。 次は、太陽の世界だった。 太陽の世界は、ただただ温かい光で音もなく澄んだ空気をしていた。干したあとの布団みたいにそこには安心感があった。僕は気持ちが良くなり寝てしまった。 「起きて。起きてよ~。」 彼女は僕を起こしてくれた。その頃には雲の世界に入っていた。雲の世界は、幻想的だった。 薄く霧がかかったような景色の中に様々な形の雲が浮いていた。彼女は、あれこれと雲に名前をつけていった。ライオン、うさぎ、ハート、星、アイスクリーム、龍さん。 僕たちは雲の中を進んで行った。 僕たちは、雲の世界を通り抜けるとそこは龍の住む世界だった。あらゆる色や形をした龍が身体を休めたり、空を飛んだりと自由に過ごしていた。 僕らは、この世界に降りた。 龍は少し休むと言い寝てしまった。 僕と彼女は、ベンチに座った。 龍の世界なのに何故ベンチがあるのかと思った。 僕の気持ちがわかるようで彼女は、僕の疑問に答えてくれた。 「私がほしいと強く思えばこの世界は反応してくれるの。この世界は自由な世界だから。」 僕たちは、ベンチに座った。ベンチは、公園にあるものによく似ていた。 僕は彼女に色々聞きたかった。だけど、聞きたい気持ちとは反対に口は閉じてしまう。 「ごめんね。死んじゃって。」 彼女は僕を見て言った。 「なんで謝るの。君は悪いことをしたの。」 彼女は頷いた。 「君は悪くなんかない。悪いのは君を苦しめた何かだ。」 僕は彼女を見つめて言った。彼女は泣き出した。 僕は彼女の涙を何度見たのだろう。 彼女はあまり泣かない人だ。いつも楽しそうでいつも無邪気だ。 「私が死んだ理由を話しても良いかな。」 彼女は、そう言うと上を見上げた。 僕は彼女のパンドラの箱を開けることが怖かったが、彼女の話しを聞こうと思った。 「うん。僕も知りたかった。」 「私心を怪我していたの。 私は、少し人とは変わっているでしょう。 あなたに出会うずっと前からこの性格をしていて、自分がみんなと何処か違う事はわかっていたんだ。だけど、社会で生きていくためには型にはまらないといけない。 私は型からいつもはみ出していてはみ出している私は、針のような鋭い凶器で傷つけられていたの。 私は疲れてしまったの。 そんなとき、空を見上げたら大きな星が出ていて キラキラしていてとても綺麗だった。 しかも空は自由で型なんてないと気がついたの。 私は空に帰りたいと願った。 空で水泳をしたら気持ちが良いと思った。 でもね空に行く方法がわからなかった。 だから私は飛び降りてみたの。 万が一羽根が生えてきたら私は助かるし、羽根がなければ本当にお空に帰ることができると思ったから。」 「空を飛ぶ前に何で僕に相談しなかったの。」 「相談。なんでしなかったのだろう。 たぶんだけど、私の中には答えがあった。 だから、相談するとか考えなかったのだと思う。」 僕は彼女の説明を理解したくなかった。 僕は死を自ら選ぶことは反対だ。わかりやすく考えるために寿命は神様が与えてくれたとすれば、擦り切れるまで自分を全うし死んで行くべきだと思う。 命を授かる前に無くなる者たちのためにも。 「僕は君にとってなんだったの。 僕は君に信用されてなかったのかな。」 僕は涙を流していた。心の奥に蓋をしていたものが、涙となり外へ出て来た。 「私にとってあなたは、最高な幸せを与えてくれる人。あなたといれば、嫌なことなんて忘れてしまう。私はあなたをとても信頼していた。 あなたに話さなかったのは、幸せがこぼれ落ちてしまうことが悲しかったから。」 僕はやはり理解などしない。でももう彼女を苦しめることもやめた。彼女との今を大事にしたいからだ。 僕らは龍が休んでいる間、たくさんの思い出話をした。彼女に告白した日のこと、旅行のときのこと、ペアのコップをひとつ壊して彼女に叱られたこと。 みんな良い思い出だ。 僕も彼女も泣きながら、笑った。もうあらゆる感情がラッパから出る音みたいに溢れている。 しばらくすると龍は起きた。 そして僕らに優しく話しかけてきた。 「旅行に行く準備はできたか。 お互いの道をしっかりと歩くには、身体の中をきれいにする必要がある。 今の君たちなら大丈夫。必ずしっかりと歩くことができる。」 僕らは龍に乗った。 帰り道は、彼女と心から楽しんだ。 僕はもう迷わない。まっすぐに自分の人生を生きていく。
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