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僕は布団の中にいた。
懐中電灯を手に持って。僕は何で懐中電灯を持っていたのだろう。しかも、パジャマではなくてジーパンとシャツを着ている。
疲れていて深く眠っていたのだろうか。
僕は顔を洗い、時間を見た。
まだ朝食には、1時間もある。
今日は雨だ。公園には行けないから絵を描こう。
僕はメモ帳と鉛筆を取り出し、絵を描く準備をした。メモ帳のページをめくるとそこには僕ではない別の人が描いた絵があることに気がついた。
龍と、龍の背中に乗る僕と彼女だ。
絵の中の僕らはみな笑顔だった。
森や、川や、星や、龍の背景とともに描かれた絵。
最後の絵は僕と彼女が手をつなぎお互いがまっすぐ前を向いていた。
「お互いの道をまっすぐ行こう。
またいずれ出会うその日まで。」
彼女の字だ。僕は昨日天体観測に行った。
星のきれいな夜で僕は、龍と彼女に出会い旅をした。見たこともない景色を楽しみ、龍が休んでいるときに彼女と話しをした。
彼女は、かわいかった。
生きているときと何にも変わらない。
無邪気な笑顔が似合う女性だ。
僕はメモ帳に彼女の顔を描いた。彼女の笑った表情、彼女が一番好きだったワンピース姿。
花火を見に行ったときの浴衣姿の彼女。
アイスクリームを嬉しそうに食べる彼女。
女将さんが朝食ができたと呼んでくれるまで、僕は現実を忘れて彼女を描き続けた。
この宿に来て4日目だ。あと3日僕は宿に滞在する予定だ。今日は雨だしゆっくり部屋で絵を書こうと思った。
「今日は、雨ですね。」
女将さんは、窓から空を見上げていた。
「はい。」
「どこにも行けないね。島津さん今日どうするの。予定あるかな。」
女将さんは、僕に話しかけながらまだ窓の外を見ていた。
「特に予定も無く、絵でも描きながらゆっくりと過ごそうかと思っています。」
「もし島津さんさえ良ければ、昨日うちのおばあちゃんをこの宿に呼んでいてね、島の伝説を語る会をやろうと思っているの。参加しませんか。
他に2組話を聞いてくれるんだけど人数が多い方がおばあちゃんも喜ぶから。」
「是非参加させてください。とても興味深い。」
「良かった。11時にここに来てください。」
僕は、一度部屋に帰り窓から雨の降る島を見ていた。島の自然は濡れ生き生きと緑を濃くしていた。
雨がこんなに美しいとは思わなかった。
僕は、11時を少し過ぎた頃、食堂に行った。
もう他の参加者は来ていた。僕は空いている席に座った。女将さんがみんなの前に立ちあいさつをする。
「本日は、おばあちゃんのおはなし会にご参加頂きありがとうございます。私のおばあちゃんは、子どもの頃この島で生活していました。
おばあちゃんは、この島での暮しを知る数少ない人です。そんなおばあちゃんが龍のお話をします。
どうぞお楽しみください。」
みんなの拍手とともにおばあちゃんが席についた。
小柄な人で素敵な着物を着ていた。
「みなさん、こんにちわ。私はよねと言います。
最近この島で龍がいると話題になっていると孫から聞きました。
私は少し昔話をしたいと思います。
よろしくお願いいたします。」
おばあさんは、ゆっくりと話しだした。
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