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昔の競輪には、先頭員などいなかった。
だが、先陣を切って飛び出すより、その後ろに着いた方が有利と分かっているのだから、誰も先に行きたくはない。
そこで「トップ引き」と言って、最も競争得点が低い6番の選手が主にスタート後に先頭で走る役目をしていた。
ただでさえ勝ち目が薄い6番が更に不利になるのだ。客としても6番は着順予想から外すしかない。
しかし1973年、何と6番と7番以外の全員が落車してしまったレースで、現在でも公営競技の枠番連勝配当金としては最高記録の2363180円が飛び出したのだ。
さぞかし投票したファンは騒いだ事だろう。
そういった混乱を避け、公平な競技を行う為に、車券の対象にならないトップ引き……先頭員が設定されたのだ。
『あの日、お前と全力で競ったよな。
結果は最悪だったけど、全力でトップを引いたんだ。
そして先にくたばったのは俺だった。お前は倒れる瞬間まで、全然諦めてなかったよな。
お前の中にいるあいつの事を、あんなにかっこいいと思った事はない』
「お、おい」
『俺達は面白がって龍だの虎だのと言われるが、ただのか弱い人間さ。ちょっとくらい速くても、この世界じゃまだまだトップ引きだ。
でも俺は知ってる。お前の中には本物の龍がいる。
……カミカミでじゃがいもみたいな龍だけどな。
今はお互い6番でいいじゃねえか。
駆け引きはいらねえ。風を切って走れよ、メロン。
そしてトップを引いてそのまま勝っちまえ。一番カッコいい勝ち方だろ?
あいつさえ戻れば出来るはずだ。
いいか、次の大会、必ず優勝しろ。
知らないだろうがあそこの競輪場のスタッフには、竜崎ファンが何人もいる。
何より、俺が認めた漢がダサいままでいる事は許さねえ。早く戻って来い』
一方的に電話は切れたが、竜崎選手の中で何かが繋がった。
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