走れ!メロン!

3/14
前へ
/14ページ
次へ
元々サッカー少年だった彼の才能は、自転車に出会って見事に花開いた。 若手らしく前へ前へと全力で逃げ切りを目指すパワー先行タイプ。 187センチの恵まれた体躯から繰り出される力強い走りはファンから「ドラゴンロケット」の愛称で呼ばれている。 「ドラゴ〜〜ン!頼むぞ〜!」 そして彼が出走するレースではどこでも、一際大きな声援(ヤジ)が飛ぶ。 名前が覚えやすい事もある。 もちろん、強いからでもある。 だがそれ以上に、憎めない人柄故に彼は人気者である。 「いやその、あのですね、もう心臓バクバクばってん、と、とにかく頑張りましゅ!あっ」 現在競輪界最強の一人なのに。 ゴリラがじゃがいものコスプレをした様だ、等と言われる坊主頭のゴツい見た目なのに。 発走前のインタビューでは、大汗をかきながらカミカミになる。インタビュアーが女子アナなら尚更。デビューした時からずっとこうなのだ。 そして小さな大会であっても優勝出来たとなれば、その団栗眼(どんぐりまなこ)はすぐに感極まって涙ぐんでしまう。 ちょっとこのじゃがいも応援してやろうかな、というファンが増えるのも無理はない。 さあ、全員が入場を終えた。 興奮と緊張が漲る秋葉原競輪場(バンク)は一周400メートル。 通常のS級のレースは2025メートルだが、グランプリは2825メートル。バンクを7周する。 スタートラインに並んだ選手達は「発走機」と呼ばれる箱型の機械に後輪を突っ込んでロック、自転車に跨ってペダルと足をしっかりとベルトで固定する。 後は合図を待つだけだ。 さて、競輪を見るなら是非知っておかなければならない事がある。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加