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基本的にラインは同県、同地区の選手同士で組まれ、誰が先頭で誰が後ろに着くのか、事前にファンに告知される。
具体的な理想の展開は、前を走る竜崎選手が自慢のダッシュで先頭に立つ。
西郷選手はその後ろを追走して空気抵抗を避け、脚力を温存しながら、他のラインが追い越そうとすればこれをブロックする。やりすぎると失格になってしまうが、そこはベテランの技って奴だ。
そしてゴール前まで来たらラインを解除、互いに全力で一着を狙うのだ。
途中まではチームバトル、ゴール前では個人戦になるのである。
ただし、知らない人でも何となく分かるだろうが、有利なのはラインの二番目に着く「番手」と呼ばれる選手である。
ラインの先頭の選手は最後は力尽きて、トップを走っていたのにビリに……なんて事も珍しくない。
だが、竜崎選手はそれでもいいと思っていた。
5回もグランプリに出ている西郷選手だが、優勝はまだ無い。
俺は発射台でいい。そして尊敬する大先輩を優勝させる!
今日も戦法はとにかく前へ。一歩も引かない「男気先行」だ。
もしも西郷選手が優勝出来たなら、きっと自分の事の様に大粒の涙でそのいかつい顔を濡らすに違いない。
今日は①③⑧の三人が東北・関東ライン。
②⑦⑨が四国・中国ライン。
そして竜崎・西郷選手の⑥⑤、九州ライン。
俗に言う「三分戦」となった。
さて、残った4番、関西の選手は一人で走る。どのラインにも属さない「単騎」である。
一瞬、彼と竜崎選手が視線を交わすと、間に挟まれた西郷選手が「おおっ」と口にした程のわかりやすい火花がバチッと散った。
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