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彼は新庄大河選手。
竜崎選手とは同期で、こちらもグランプリ初出場。
好機と見るや一気に前へ飛び出すその鋭いダッシュは「大河ダッシュ」の愛称で呼ばれている。
デビュー前から逸材と呼ばれ、その期待に応えて来た二人。競争得点もほぼ同じ。
そんな彼らには一つだけ、大きな違いがあった。
「西郷〜〜!今年は勝てよ〜〜!」
「ヘマすんなよ竜崎〜〜!」
各選手に浴びせられる、おじさんたちの野太い声援、激励、或いはただの悪口。
そんな中、場違いな黄色い声が。
「きゃ〜〜っ大河〜〜!頑張って〜〜!」
「タイガーー!優勝してね〜〜!」
競輪はファンも選手もおじさんばかり、等と言われるが、もちろん若いイケメンだっているのだ。
「おっかけ」がいる選手も。
新庄選手がまさにそれだった。
……や、やっぱこいつにだけは勝つ!
──ダァン!
号砲一発鳴り響き、さあグランプリが始まった!
だが、徒競走の様にいきなり全員が全力で駆け出す訳ではない。
「先頭固定」と言って、バンクにはレースを競う選手以外にもう一人「先頭員」という係が存在し、残り2周まで先頭を一定のペースで走る事になっている。
これを追い越すと失格になるばかりか、重いペナルティが課せられてしまう。
選手達は先頭員の後ろを追従しながらラインの隊列を整え、互いに牽制しながらそれぞれの戦略を立てるのだ。
先頭員が外れてからがレースは本番だが。
前を取って逃げるのか、後ろから追い上げるのか、どのタイミングで仕掛けるか──
迷わず竜崎選手は先頭員の後ろに着いた。西郷選手が続き、その後ろを新庄選手が追いかける。
それは誰もが予想した展開だった。
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