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竜崎選手は驚いていた。
新庄選手とレースで走った事は何度もある。しかし、前を逃げる彼を最後に新庄選手が後方から鋭く捲って、ゴール前で勝負!というパターンばかりだった。
どっちが勝った回数が多いかなんて数えていないが、多分互角だったと思う。
それがどうだ。
隣を見れば、おっかけがいる様なイケメンが。
あのカッコイイ奴が。
整った顔を苦痛と闘志に醜く歪め、歯を食いしばった口元からは涎が流れそうな程。
正しく必死で駆けているではないか。
彼とこんなに競った事はない。
なんちゅう酷か顔ばしとっとか。
こぎゃんなってでん勝ちたかとか。
何に?グランプリに?
違う……俺にか!?
くだらない嫉妬をしていた自分が恥ずかしかった。
こいつ、こんなにかっこよかったのか。
そんなら!俺も全力で応えるだけたい!
このまま行けば秋葉原競輪場のコースレコードを塗り替えて、どちらかが優勝していただろう。
だが。
高ギア比で遊びが無い競輪の自転車のペダルは非常に重く、人が全力で漕げるのは2000メートルが限界と言われている。
グランプリは今年で第40回。
参加した全員が名選手。
当然、その全てが名勝負。
今まで誰もなし得なかった戦法で勝つ事は。
記録を破る、とはそれ程簡単ではないのだ。
どちらが先だったのか。
それはレースのダイジェストを見ても判断しにくいが。
鍛えて鍛えて鍛え抜いたはずの二人の脚に、無情にも限界は訪れた。
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