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二人の後ろを猛追しながら、西郷選手は腹を決める。
今回、彼は本命一番人気。
だが前を走る二人が速い。速過ぎる。
──しゃーねえ、今年は譲ってやるよ。
西郷選手は42歳。スポーツ選手は引退を考える年齢だ。
だが、競輪選手に定年はない。競争得点さえ保っていれば何歳になっても続けられる。
50代のS級選手は珍しくないし、A級には60代の選手も何人もいる。
過去には68歳の選手が、順位はどうあれゴールした記録がある。
限界?そんなの気のせいさ!
俺は来年も再来年もグランプリに出る!
個人の勝利が無理でも「ラインの勝利」を目指す!竜崎が勝つと信じて、俺は3着を死守だ!後から来る連中は意地でも前に行かせねえ!
最終コーナーが見えた!
後は約50メートルの直線を残すのみ!
追いすがる後続ラインを確認する為に、西郷選手が一瞬、振り向いた、その時だった。
ベテランの勘を嘲る様なタイミングで、前の二人が大きくバランスを崩してぶつかったのだ。
後続のラインの選手は散り散りになって避けるが、真後ろの西郷選手に避ける術はない。
ブレーキ?
そんな物はない。
競輪選手の自転車に、ブレーキは無いのだ。
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