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麗子と見かけはそっくりな眞子だが、突然身代わりなどが出来るわけもない。ほぼ寝ずにレッスンをしたり、モデルの立ち位置を勉強したり、立ち振る舞いや言葉遣いを習得した。
また、万が一に備え、彼女の交友関係や、日々の癖、よく使う言葉なども頭に叩き込んだ。いつも以上に麗子の動画や画像を見て、橋爪と研究し続けた。
最初はボロが出にくい雑誌の撮影や動画サイトで発信するコメントの撮影だった。
どちらの現場にもメイクさんやカメラマンもいたが、特にバレる事はなかった。自分の演技力の賜物か?と勘違いしそうになったが、どうやたらメイクさんの方は事情を察しているらしい。特にメイクさんは肌や髪に触れる。いくら整形で偽ているとはいえ、肌質や髪質までも完全にコピーするのは、難しいだろう。バレるかとヒヤヒヤしたが、メイクさんは「お察し」と言う顔だった。
メイクしてもらいながら、こっそりと聞いてみた。こういう身バレをするようなスリリングな体験は今までには全く無く、逆に楽しんでいる自分がいる事に気づく。
「あの、こういう身代わりみたいなのってよくあるんですか?」
四十代ぐらいの地味な女性だったが、メイクは職人技だった。眞子がするよりも麗子に似てきた。眉毛やアイシャドウの微妙なニュアンスが、メイクさんの手によってさらに麗子っぽくなってきた。
「まあ、あんまり大きな声では言えないですが。コロナワクチンの影響か何のか因果関係は不明ですが、体調崩している芸能人が多いんですよねー」
「へえ」
「さ、メイクできました」
こうしてメイクをして貰った顔は、麗子とそっくりだった。いや、麗子そのものと言っていい。眞子の顔は完全に消え去っていた。
スタジオに行き、必死にポーズをとりながら、カメラマンに写真を撮ってもらう。最初は自信がなかったが、褒められながら写真を撮ってもらうと、だんだんとその気になってきた。
私は麗子!
そう思い込むようになってきた。麗子の身代わりの仕事をするたび、どんどん眞子が消えている感覚も覚えた。
「麗子ちゃん、綺麗だよ!」
現場についてきた橋爪にも褒められ、眞子の自我は完全に崩壊していた。もう麗子として生きるのもアリ?
憧れの麗子になれた。
こうして眞子の夢が叶った。麗子の身代わりをしながら、絶頂気分だった。
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