ササヤカな声

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「好きな人が出来た」 園子に告げてサラと付き合い始めた。 何となく彩芽と似ているサラを 俺は夢中で愛した。 付き合って一ヶ月。 園子から「話がしたい」と呼び出された。 別れ話をした時 友達に戻ろうと言われたから 何の話があるのか検討もつかない。 カフェに行くと 深刻な顔をした園子が座っていた。 その隣に本社の同期を連れている。 二対一で何だよ? 良い話ではないと察して腹が立った。 「話って何?」 二股を掛けたわけでもないし 誰かに何かを責められるようなことを した覚えがない。 「俺これからサラとデートなんだけど」 復縁したいと言われたら面倒だと思って 付き合い始めたことをアピールした。 同期に促されて ようやく園子が重い口を開いた。 「私……、恭介の子を妊娠してる」 「は?」 ずっと用心深くしていたから そんなはずない。 嘘をついてると思った。 病院に行ったとか、 産みたいだの、育てたいだの……。 勝手なこと言うなよ。 でも 目の前に置かれたエコー写真に 息を呑んだ。 お腹の子を失った時 泣きじゃくっていた彩芽を思い出す。 園子のこと好きじゃなくなったわけじゃない。 サラに惹かれたから別れただけだ。 宿っている命の重さと 付き合ったばかりの彼女の重さなら どちらが重いかなんて わかりきっている。 時間が欲しいと言い残して サラとの待ち合わせ場所へ移動した。 『結婚してくれないなら死ぬから』 園子から送られてきたメッセージに 絶望している俺を見つけたサラは 屈託のない笑顔で駆け寄ってくる。 園子より若くて美人だ。 俺みたいな奴よりもっと お似合いな彼氏がすぐに見つかる。 心を決めた。
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