ササヤカな声

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「好きな人が出来た」 サラに告げる。 「嘘だ」「嫌だ」と すがられるのが辛すぎて 泣くサラを置いて帰った。 苦しいのは俺も同じ。 底なし沼でもがくみたいに 重い泥が絡みついて 呼吸さえ上手くできない。 くそっ。 父親が俺じゃない可能性は…なんて 聞くだけ無駄とわかってる。 心を殺して園子に結婚を申し込む。 形だけのプロポーズ。 形だけの結婚式。 そんなものに喜ぶ園子のこと どういう風に愛せば良いかわからない。 薄っぺらい結婚生活にうんざりする。 だけど 日に日に大きくなっていくお腹と それを愛しそうに撫でる園子を見ていると 守ってやりたいと思った。 迷いの中、迎えた春。 真っ白い眩しい光の朝。 「おぎゃっ、おぎゃあ」 産声を上げた小さな命に 震えるほど感動した。 「園子、ありがとう」 自然と口にしていた。
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