ササヤカな声

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『やっと、会えたね』 おくるみに包まれた我が子を 初めて抱っこした時 確かにそう聞こえた。 「え?」 赤ちゃんが喋った? 俺たちを撮影している園子と 片付けをしている看護師さんしかいない。 気のせいか。 個室へと移った時 ベッド橫にある椅子でウトウトしていた。 『次は妹を連れて来るね』 真っ白い眩しい光の中で 薄目を開けて声の主を探す。 ニッと微笑む赤ちゃん。 驚いて飛び起きた。 「そ、園子。赤ちゃん喋ったんだけど!」 「そんな馬鹿な(笑)」 「でも、一瞬笑ったし!」 「それ新生児微笑っていうんだよ」 初スマイルを写真に撮りたかったーと 園子が赤ちゃんをそっと抱き上げる。 俺はその顔を覗き込んで 黒目がちな瞳を見つめた。 「おい、さっき、妹を…って言った?」 「恭介ったら気が早いよー(笑)」 園子が笑う。 「だよな(笑)」 気のせい。気のせい。 俺がその小さな頬を撫でると 赤ちゃんはもう一度ニヤッと笑った。
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