ササヤカな声

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「お疲れさま」 指先で栗色の髪をいじりながら 座っている彩芽に声を掛けて 向かい側に座る。 「恭ちゃん!」 「もう注文した?」 「ううん。あのね……」 水をゴクゴクと飲んだ彩芽は 体温計のようなものを俺に見せた。 「これは…?」 「妊娠検査薬」 「えっ?」 「線が二本で陽性なの」 バッチリと二本の線が見えている。 つまり。 「彩芽…、妊娠した?」 「うん。多分」 頭の中が真っ白になった。 「子供…」 想像すらしたことない事を 急に言われて呆然としていると 彩芽は俺の両手を握った。 「同棲じゃなくて結婚しない?」 「え、結婚?」 「うん。嫌?」 同棲の話が出た時から いつかは結婚するとは思っていたが。 「俺でいいの?」 貯金もなければ収入は彩芽に及ばない。 お互い一人暮らしだから 一緒に生活した方が節約になると 言い出したのは彩芽の方だ。 「恭ちゃんがいいの」 「そ…っか。うん、結婚しよう」 お祝いディナーになったねと 奮発して一番高いコースを頼んだ。 運ばれてきた豪華な料理を前にして 「うっ。ごめん、恭ちゃん…」 「どうした?」 「悪阻が始まったみたい…」 「えっ?!」 彩芽はトイレへと駆け込んで行った。
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