ササヤカな声

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「おめでとうございます」 後日、病院の診察室で 彩芽のお腹にエコーを当てて 先生が言った。 俺と彩芽はキラキラと目を合わせた。 「ありがとうございます」 「あ、これは…。ちょっと待ってね」 先生は慎重にエコーを動かす。 「双子ちゃんですね」 「双子?!」 予想外だった。 エコー写真をもらってから 彩芽は口数が少なくなった。 帰り道。 「……私、双子を育てる自信ない」 「何とかなるよ」 「私の収入が減ったら二人も子育て出来ないよ」 「そうかもしれないけど…」 お互いに遠方に住む両親に 産後の手伝いも金銭的な援助も 期待できない。 「どうしよう、恭ちゃん…」 彩芽は泣き出してしまった。 「大丈夫だよ……」 背中をさすると 彩芽は「うっ」と呻いて 「気持ち悪いからやめて!」と 俺の手を振り払った。 何とか自宅に送り届けたが 「吐き気がする、気持ち悪い、無理」と 言われて追い返された。 その後も 何度か自宅に様子を見に行ったが 俺の匂いが気持ち悪いと 部屋に入れてもらえない。 「彩芽が妊娠してること親に言っていい?」 ドア越しに聞いてみたが 「今はそれどころじゃない!」と言って ボンッ! ドアに何か投げつけられた音がした。
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