ササヤカな声

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「ごめんなさい」 「へ?」 プロポーズする前に断られた? 指輪の箱を開けようとした手を止めて 彩芽の顔を見ると 両目から涙が溢れている。 「私たち別れよう」 「へっ?」 「恭ちゃんは好きだけど……」 すすり泣きしながら彩芽がうつむく。 「結婚相手には思えない」 つらつらと別れる理由を並べられて ぐうの音も出ない。 「恭ちゃんといると苦しい。一人になりたい」 「じゃ、何で北海道に来たんだよ」 「行かないって言えなかった」 最後の一言が突き刺さって 二枚分のルームカードを彩芽に渡すと 俺は荷物を持ってホテルを出た。 行くあてなんかない。 目についた居酒屋で クソ旨い海鮮料理を食べながら 浴びるように酒を飲んだ。 閉店時間になった店を出ると 大学生くらいの女の子が キョロキョロしながら 何かを探しているようだった。 「どーしたのー?」 女の子は不審そうな眼差しで 俺をじろりと見たが 泣き出しそうな顔をしている。 やべ。通報される。 俺自身の身の危険を感じて 「何か困ってんのかと思っただけー。じゃねー」 と手を振った。 「す、スマホ、落としちゃって……」 意外にも助けを求めてきた。 見知らぬ男に頼るなんて危なっかしいな。 「交番に行けばー?」 「行ったけど、届いてなくて…」 「明日には届くかもよ。もう遅いから帰りなー?」 「ホテルの場所がわからないんです……」 女の子をよく見ると汗だくだった。 きっとスマホを探し回ったんだろう。 ホテルの名前もわからないと言う。 大学生で一人旅をしているらしい。 どうせ俺はやることもない。 「一緒に探してあげよっかー?」 「……お願いします」 ふらつく足取りで 女の子が散歩したという公園へ向かった。
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