ササヤカな声

8/13
前へ
/13ページ
次へ
「ありましたー!」 夜中の公園。 電話番号を聞いてスマホを鳴らしてやると 暗闇から着信音が聞こえて来た。 「良かったねー」 「あー、ホテルもアレでしたー(笑)」 指差した先に建物が見えている。 「おめでとー。じゃあねー」 何度もお礼を言いながら 去っていく女の子を見送った。 緊張が緩んだせいか 飲み過ぎと食べ過ぎに加えて 動き回ったせいで 吐き気が込み上げて来た。 草陰で盛大に胃の中の物を戻す。 目の前がグラグラしてベンチに倒れ込んだ。 気持ち悪い。 「あの、大丈夫ですか?」 さっきの女の子が戻って来た。 「あー、単なる飲み過ぎだから」 「救急車呼びますか?」 「そんなのいい、いい」 「顔色が悪いです」 女の子の声がガンガンする頭に響く。 そこで記憶は途絶えた。 真っ白い眩しい光の中で 薄目を開けると 腕の中に彩芽がいた。 別れ話は夢だったのか? 栗色の髪にキスをして 服の中に手を滑り込ませた。 スベスベの肌を堪能していると 体をピクピクと震わせる。 「する?」と聞くと黙って頷いた。 自分の下着を脱ぎ捨てて 彩芽の服を脱がせる時 人違いだと気付いた。 昨日の……!? しかし、顔を赤らめて 俺を待っている女の子に 理性は一瞬で吹っ飛んだ。 自暴自棄になって やるせない思いを 何度も何度もぶつけた。 我に返ると自己嫌悪しかなかった。 俺はとんでもないことを……! Tシャツだけを着た女の子は 俺が作った指輪を手に取って 光にかざして眺めていた。 「キレーですね」 「君にあげる」 「いいんですか?」 「うん」 ふふっと笑って寝転んだと思うと 再び寝息を立てていた。 遅くまで世話を焼いてくれたんだな。 畳まれた俺の服、飲み物や薬が並んでいる。 財布に入ってる現金を全部置いて 静かにホテルを出た。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加