ササヤカな声

9/13
前へ
/13ページ
次へ
「また会えた!」 飛行場の寂れた土産屋で ご当地はにゃ丸を買っていると 後ろから声を掛けられた。 「あー…」 ワンナイトの相手に見つかって非常に気まずい。 「何で電話に出てくれないんですか?」 「いや、だって、ほら……ね?」 「まさかヤリ逃げするつもり?」 「いや、そんな……」 図星だ。 「お兄さん、名前は何て言うんですか」 「きょう……」 本名は言わない方が良いか? 「きょうさん……」 躊躇して途中で止めた名前を 彼女は頬を赤らめながら呟いた。 「あ、俺もう飛行機の時間だから!じゃっ」 素早く逃げた。 「待って!」 追い掛けて来た彼女を巻いた後 会員専用ラウンジへと入った。 学生は入れないはず。 スマホの電源を切ってテーブルに突っ伏した。 一人で地元に帰って来た後 ビビった俺は電話番号を変えた。 番号変更を彩芽に知らせたが返事はなくて 工場の近くのワンルームに引っ越した。 彩芽と子供たちと 騒がしい日々を過ごせたらなんて 夢を思い描くこともしなくなった。 ぼっちで迎える三回目の冬。 仕事ばかりで女っ気のない部屋に 同期の園子が出入りするようになって いつの間にか付き合うことになった。 春。 俺はチーム長になった。 彼女の園子は社内コンペで大賞を取り 本社へと異動になった。 近頃は結婚を匂わせて来るが 今はまだそんな気になれなかった。 会うのが少し憂鬱になっていて 頻繁に会えなくなったことに ちょっぴり安堵していた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加