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「……なんだここ」
飛牙舞は、ぐるっと辺りを見回した。
さっきまで自分の部屋にいたはずなのに、なぜか今は屋外にいる。
抜けるような高い青空を背景に、満開の桜が咲き誇っていた。小さな美しい花びらが風に揺れ、ひらひらと次々舞い散っていく。
そのうちの何枚かは、飛牙舞が立つ朱色の和風な橋に降り注いでいた。春の風景の中、透き通るような川の流れの音がさんさんと聴こえてくる。
自分の姿を見下ろせば、変化の術を使った覚えもないのに人間姿で、しかも和服を身にまとっている。
赤い着物に、黒い袴と羽織。黒地に金と銀の刺繍糸が星空みたいだ。
「お、また人が来た」
ふいに聞こえた声に視線を上げると、透が立っていた。
こちらはきりっとひきしまったタキシードだ。
顔がイケメンなのと、普段のエピソードでは私服か制服しか着ていないだけに、正装の破壊力が半端ない。
「……あれ、オッドアイ? 君人外だったりする?」
「…………」
人外に慣れている透に対し、「見ず知らずの人間に教えることは何もねえ」視線を向けて沈黙する飛牙舞。
「ひっ」
小さく悲鳴が聞こえたと思ったら、透の後ろには着物姿の小叶が隠れていた。やわらかなグレーの生地の裾に、青と黄のヒヤシンスが咲いている。羽織の色は深い藍色。
飛牙舞の黒い羽織と袴は新月の夜闇を思わせるが、小叶の羽織は夕暮れが過ぎ去ったばかりの、境目の空の色だ。
小叶は飛牙舞の鋭い眼光に耐えきれなかったらしく、怯えた表情でかたまっていた。
「あ〜、こらこら、睨むな睨むな。小叶くんが威嚇されて怖がってるぞ」
「……こきょう……?」
透から小叶に飛牙舞の視線がうつる。体をすくめる小叶。
「とっ、透さん……」
「あー大丈夫大丈夫。さすがに本編外で死んだり大怪我することなんかないよ。……とはいえお前、どこから来たか知らないけど、新人くんを怯えさせたらだめだろ」
小叶を落ち着かせながら、飛牙舞を見てたしなめる(精神年齢が)最年長。なお実年齢で言うなら、まさに今たしなめられている飛牙舞が妖怪の特権で百歳以上ぶっちぎり最年長だ。
実年齢最年長は、透の言葉に目を細めて小叶を見る。
「新人……あー、新シリーズのやつか。ってことは、お前も別作品?」
「『透明roomでお楽しみください!』から来てる。主人公の透だ」
「あっ、えと、僕は恋骨……『僕が恋した骸骨は死んだ』から来ました。名前は西坂小叶です。……たぶん僕も主人公です」
「小叶のとこタイトル怖いな!?」
「は、はい、めちゃめちゃ怖いです。夜の学校でいきなり骨格標本が動き出したり、あと幽霊が出たり……」
「俺のアパートのポルターガイストも真っ青」
ドン引きする透に、慌てて小叶が両手をパタパタ振る。
「あっ、でもみんな本当は優しいですよ! 菊も、最初は骨格標本に話しかけられて怖かったけど、実は優しくてかっこよくて、尊敬します」
骨格標本の菊のことを口にすると、小叶の顔がほころんだ。本当に心を開いているらしい。
「……で、お前は?」
「あー……」
しばらく迷ったすえに、飛牙舞はこの人間二人には害がないと判断して口を開いた。
「『王道(?)伝説!』の飛牙舞」
「……」
それだけ? と言いかけるも、なんだか怖くてやめる透。
「……えーっと、飛牙舞も主人公?」
「は? そんなわけねーだろ。主人公はうちの姉ちゃんだ。俺なんかどう考えても主人公枠じゃないだろ」
こんな和の似合うイケメンが主人公だったら確かに大変だなと、透は思った。
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