6人が本棚に入れています
本棚に追加
出会い
昔から、歌手になりたかった。
歌で生計を立てる人になりたくて、親のことを説得して、芸術大学に入った。
だが、入学してすぐ、自分がどれほど未熟か、思い知らされることになった。
全員がプロを目指してやってくる。至極当たり前のことだ。
その分、受験の時に集中してスクールに通った自分と、幼い頃から楽器や歌に触れてきた人とでは……ハッキリと見える、大きな差があった。
少しずつ自信を失っていく。これなら、もう中退して、別の専門学校とか受けた方が、将来的にもいいんじゃないか。
2年生の半ばにそう思い始めた頃、学校祭の話が回ってきた。
高校で言う文化祭。ステージ発表の場があって「才能なんか関係なく、全員で盛り上がろう」という、在り来りなコンセプト。
(これを最後にして、もうやめよう。)
そう決意して、ステージ発表に応募。すぐに審査は通過して担当する実行委員が1人そちらに行きます、という連絡が来た。
(担当実行委員なんているんだ、さすが大学。高校とは違うな。)
自作の曲は封印して、他の曲のカバーで出るつもりだった。
どうせ認められない。最後ぐらい、楽しい思い出で終わりたい。
ここに入って、1年半……少しずつ溜まった「辛い」という気持ちは、すっかりやる気と自信を潰してしまったらしかった。
(どの曲をカバーしようかな……。)
しっかりと演奏出来る楽器は、ピアノとギターしかない。そうなれば、音源も探さなくてはいけない。やることが山積みだ。
今になって、出場を決めたことを後悔し始めていた。
最初のコメントを投稿しよう!